7.高まる緊張感の中で



息をするのも忘れて、私は呆然と見惚れていた。
目の前のシュラは、スラリとした長身に黒のタキシードが驚く程スマートで似合っている。
幼い頃から傍に居たから、彼の容姿の事などあまり考えた事はなかったのだが、自分の恋人は超ハイレベル、いや、それ以上に素晴らしいのだと、今更ながらに気付く。
そう思うと急に、自分がシュラと釣り合っていないのではないかと激しい不安に襲われ、そっと視線を外して俯いた。


「……アレックス? どうした?」


それまで私と同じように言葉もなくこちらを見ていたシュラが、怪訝そうな声を上げる。
伸ばした手が私の頬を包み込み、否応なく上を向かされて。
すると再び視界いっぱいにシュラの素敵過ぎる姿が映り、胸の奥がキュッと切ない音を立てた。


「そんな顔をして……、不安になったか?」
「あの……。」


シュラは今から行われるパーティーの事、そして、アイオリアとの話し合いが上手くいくかどうか、私が不安に思っていると勘違いしたのだろう。
空いたもう一方の腕を背に回して、軽く引き寄せてくる。
私は逆らわずにシュラに身を寄せ、だが、腕の中で小さく首を振った。


「えっと、そうじゃないの。不安になったのは、シュラがあまりに素敵過ぎるから。」
「どういう事だ?」


腕の力を緩め、私の顔を覗き込んでくるシュラに向かって、無理に作った笑顔を投げ掛ける。
でも、それが酷く引き攣っている事は、自分でも良く分かっていた。


「私なんかで良いのかなって。そう思っちゃったの。」
「アレックス……。」


シュラの顔を見ていられなくて、再び俯いた私の耳に届いたのは、フッと零れた軽い笑い。
そして、私の頬を包んだ大きな手によって、また上を向かされる。
そこには私だけに見せる、あのはにかんだ笑みを浮かべたシュラの顔があった。


「馬鹿だな。俺にはアレックスしかいないと、お前自身、良く分かっているだろう? それに……。」
「??」


一旦、言葉が途切れたと思ったら、グッと近付くシュラの顔。
ドキッと頬を赤く染めた私の耳元で、シュラの低い声が囁いた。


「見惚れたのは俺も同じだ、アレックス。」
「……シュラ?」


直ぐに顔を離して、また私に、はにかんだ笑みを向けるシュラの瞳は、その漆黒の色の奥に隠し切れない情熱が揺らめいていた。
この瞳は間違いない、いつもベッドの上で見せる、あの情熱的な……。


「パーティーなど出ずに、このまま押し倒したい気分なんだが。流石に、そういう訳にはいかんだろうな。」
「……シュラの馬鹿。」


真っ赤になって小声で呟いた私の視界の中で、シュラは、はにかんだ笑みを苦笑いに変えた。
背に回していた手を上へ上げ、私の髪から首、そして肩へと滑らせて。
腕を伝い辿り着いた私の手を取ると、ワザと音が鳴るようにチュッと手の甲へ口付ける。


「綺麗だ、アレックス。今日は、いつも以上に……。」
「シュラ……。」


私の手を掴んだまま、頭の上から足の先までじっくりと視線を走らせた後、満足気に頷くシュラが眩しい。
こんなにも彼に愛されている事を実感し、私は胸の奥が熱くなっていくのが分かった。





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