シュラが天界で待っていてくれるのなら、あまり待たせては可哀想よね。
でも、だからといって早く彼の傍へ行こうとしたら、きっと凄く怒るのだろう。
勝手に自分の命を縮めるなと、そう言って。
「あ、でもっ!」
「何だ、アレックス?」
私はシュラに両頬を包まれた状態で、彼を見下ろしていたが、その体勢のままグッと顔を寄せた。
「天界には綺麗なニンフさんが、いっぱいいるわよね。」
「まさか、俺を疑っているのか?」
目を細めて下から私を見上げるシュラは、微かに笑っている。
まるで他人事のように。
「だって、そんなに長い時間待たせたら、シュラだって寂しいでしょ? シュラは素敵な男性だから、絶対、ニンフさんが放っておかないだろうし。それに……。」
それに、私はシュラが初めてで、シュラしか知らないけれど、シュラは私が初めてではなかったし、私以外の女の人も知っている。
それはシュラ自身が教えてくれた事。
まだ思春期の頃、『敵を斬った後の昂揚した状態で私と添い寝などしたら、何をしでかすか分からず危ない』からと、聖域内のそういった施設で発散していたのだ。
以前、彼が包み隠さず全てを教えてくれた。
「俺はアレックス以外の女に興味はない。それにアレックスを俺だけのものにしてからは、他の女に触れた事すらない。触れたいとも思わん。」
キッパリと言い切るシュラの瞳に、陰りはない。
彼を見下ろす私の視線を、真っ直ぐに見上げて受け止めている。
「本当に? 綺麗なニンフさんに誘惑されても?」
執拗な私の問い詰めに、シュラは穏やかな笑みで返した。
「この腕に宿る聖剣に誓おうか? 欲しいのはアレックスだけだと。」
『欲しい』の一言に、心より先に身体が反応した。
無意識の内にピクリと揺れて、そして、その反応をシュラは当たり前に見逃さなかった。
「アレックスの身体は正直だな。だが、そんなところも好きだ。」
『欲しい』の次は、『好き』。
なら、『好き』の次は?
「愛してる、アレックス。この世で、たった一つ。ココが俺の愛がある場所だ。」
頬を包んでいた両手が、欲しいものを求めて下へ下へと降りていく。
シュラだけのための、シュラの為にある場所へ。
「しゅ、シュラッ!」
「何だ?」
「まだ、朝……、あっ。」
身悶える私を見た彼がニヤリと笑んだと思った、次の瞬間。
私とシュラの上下が入れ替わり、彼によってベッドに組み敷かれていた。
「起きなければならない時間までは、まだまだある。もっと俺を満足させてくれ。」
俺を満たす事が出来るのは、アレックスだけだ。
反則的に色っぽい声で、そんな言葉を囁かれたら、心も身体も蕩けてしまうに決まっている。
絶対に確信犯だ。
そう思いつつ、流されるままに彼に身を委ね、直ぐに襲ってきた快楽の激流に溺れた。
私だって……。
私だって、きっと同じだ。
試した事もないから実際には分からないけれど、私を満たす事が出来るのは、この世にシュラだけだと信じている。
だからこそ、彼と愛を紡ぐこの時は、この世に二つとない至福の瞬間なのだ。
霞んだ視界に映るのは、私に喜びを与えようとギュッと眉を寄せ、自身の快感に耐えるシュラの姿。
得も言われぬ快楽の中で、その肩越しに徐々に広がっていく朝の光が、二人だけの寝室の天井を暖かな色に染めていくのが見えた。
→第6話へ続く