アイオロスの腕の中は、昔も今も変わらず広かった。
私はもう十三年前のような七歳の子供ではない筈なのに、その広さが全く変わらなく感じるのは、何とも不思議な感覚だ。


「アレックスも随分と大人になっちゃったんだな。こうして抱き締めると、すっかり大人の女性の抱き心地だ。」
「当たり前でしょ。私だって、もう二十歳なんだから。」


でも、アイオロスにとって、この十三年は大きかったようで。
昔とは違う私の感触に、彼は曖昧な笑顔を浮かべる。
苦笑しながらアイオロスを見上げると、彼はホンの少しだけ困惑しているようだった。


「リアも、あんなに逞しく大きくなってしまったし……。兄ちゃん、ちょっとだけ寂しい気分だ。」


私達にとっては長い十三年だったが、命を失っていたアイオロスには、束の間の時だったのかもしれない。
何もかもが変わってしまった私達と、昔と同じように接するのは、きっと相当な困難だろう。
ボンヤリと彼の曖昧な笑顔を見上げながら、そんな事を考えている間に、アイオロスは私から離れ、立ち上がって歩き出していた。
多分、早速とばかりに何やら手を打ちに行くのだろうと、その大きな背中を見送り思う。


「……あぁ、そうだ。」
「何?」


だが、ピタリと足を止めて、振り返ったアイオロスが私に尋ねた言葉。


「アレックスは、いつからシュラの事が好きになったんだ?」
「え……?」


それは思いも掛けない質問だった。
いつから?
そんな事、一度も考えた事なんてなかった。
目を見開いて、ジッとアイオロスを見返していた私に、彼はニコリと優しく微笑む。


「正直、驚いたんだ。シュラもアレックスも大人になったのに、まだこうして昔と同じように一緒にいるって事にね。」


私は初めて出逢った三歳の頃から、変わらずにずっとシュラの傍にいる。
そうする事を選んだせいで、アイオリアを傷付けて、今に至る訳だけど。


「考えた事もないよ。私はただ、シュラの傍に居たいって気持ちに素直に従って、今日まで来ただけだから。」


私にはシュラだけしか見えていなかったし、見る気もなかった。
彼と共に居る時間が、子供の頃の昔も、大人になった今も、それが最良の時だと胸を張ってハッキリ言える。


「ずっと同じ気持ちだったって事か?」
「うん、そう……。多分、初めて逢った時から、ずっとシュラの事を愛していたんだと思う。」


そうだ。
私にとって、シュラとの出逢いが恋の始まりだった。
最初で最後、たった一つの恋の始まり。


「そうか……。アレックスにそんな風に想われているなんて、幸せ者だな。シュラが羨ましいよ。」


そう言って、再び背を向け立ち去るアイオロスの、次第に遠ざかる背中を見つめて、私は自身が手にしている幸せを噛み締める。
暫くの間、私はそのまま柱に凭れてボンヤリとしていた。
眼下には長い十二宮の階段が続く。
この階段を、何度シュラと共に歩いただろう。
彼の背におぶさって、彼に手を引かれて、彼と並んで手を繋いで。
シュラに横抱きにされて、そのまま寝室に直行した事もあった。


いつも夕焼け色に染まる甘い思い出。
シュラと私の十七年は、茜色した恋の積み重ねのような日々だった。



→第4話へ続く


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