喧嘩する事なんて何一つない。
シュラの傍に居られれば、私はそれだけで、とても幸せで。
当たり前のように毎日を共に重ねていく時間は、本当は当たり前なんかじゃなくて、砂粒くらいの小さな奇跡なのかもしれない。
だから、その奇跡のような恋愛を、今は後悔なく消化したいのだ。


「そうか、昔から仲良しだったもんな、シュラとアレックスは。」
「……うん。」


こんな風に揺らいだ気持ちのままで、この先もシュラと共に過ごしていくのは辛い。
限りある時間と割り切っていた以前とは違うのだもの。
再び私の傍に戻ってきてくれたシュラと、今度はいつまでも幸せに暮らしていきたい。


だから――。


「そうか、リアがね……。全くしょうがないヤツだな。」


私は、アイオロスに今までの事を全て話した。
彼が姿を消してから今日まで、ずっと続いているアイオリアとの間の確執の事を。


「確かに、悪いのは私。でも、仲直りしたいのに、リアは私の言葉に耳を貸そうともしてくれないから……。」
「あー……。」


私の横で、アイオロスが身動ぎをしたのが分かった。
見れば、私と同じ金茶色をした髪をバリバリと掻き毟っている。


「あいつは強情だからなぁ。本当はとっくの昔に許しているんだろうけど、自分から折れる事を知らないんだろうな。」
「やっぱり……。」


アイオロスの言葉に、私は溜息を一つ。
せめて、話さえ聞いてくれたら。
そしたら、アイオリアだって心を開いてくれる可能性はある。
話を聞いて貰えるような、何かきっかけがあれば良いのだけど。


「きっかけねぇ……。うん、それは俺に任せてくれないか?」
「??」


何か良いアイデアでも思い付いたのだろうか?
アイオロスは私の肩を一つだけポンと叩いて、それから、いつものようにニコニコと笑った。


「シュラには話したのか、アレックス?」
「うぅん、まだ。」
「そっか。じゃ、俺から話をしとくよ。」


小さく上下に首を振ると、アイオロスは笑顔を止めてジッと私の瞳を見る。
そして、また眩しいばかりの笑顔。


「……ロスにぃ。」
「ん? 何だ、アレックス?」


この笑顔……。
何だか引っ掛かる。
もしかして私、間違った相手に相談しちゃったのかも?


「何か企んでいたりはしないわよ、ね?」


アイオロスは私の言葉に一瞬、キョトンと目を丸くして。
だけど、直ぐに元の笑顔に戻った。


「俺が何を企むって言うんだ、アレックス? 兄ちゃんはただ、可愛い弟と妹に早く仲直りして欲しいと思ってるだけだよ。」


だからと言って、おかしな事はしないでよね。
そう言い掛けて、でも、言う事は出来なかった。
私はニュッと伸びてきたアイオロスの長く太い二本の腕に捉えられて、その逞しい胸の中に閉じ込められてしまったから。


「ん……! 苦、し……、ロスにぃ!」
「いつもシュラにばかり独占されてるんだ。たまには兄ちゃんにも抱き締めさせろ。」


豪快に笑いながら、思うままに私を満足するまで抱き締めると、アイオロスはやっと腕の力を緩めた。
同時に、酸欠になり掛けた私の唇からは、大きな息が漏れ出た。





- 8/30 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -