そこかしこに現れた無数の『顔』達は、それぞれに悲痛な叫びやら、泣き声やら、呻き声を上げて、聞いているだけでも神経がおかしくなりそうな状況を、狭い小屋の中に作り上げていた。
耳を塞ぐ者、顔を顰める者、恐怖に固まる者、反応はそれぞれ。
だが、小屋の中央で身を寄せ合う皆が皆、この状況に怯えていた。


そして、まるで勿体振るように、ゆっくりと浮かび上がってきた、壁中央の『顔』。
それがハッキリとした輪郭を持ったと同時に、他の顔達の悲しみを含んだ声がピタリと静まる。
見事な演出だと言いたいところだな、皆の恐怖を煽るには効果覿面だ。


「か、頭ぁ……。あ、あれ。あれって、もしかして『前の頭』じゃ……。」
「そ、そんな筈はない! 気のせいだ! そう見えるだけだ!」
「でも、そっくりですよ、あの顔! ねぇ、頭! 俺等、このままじゃ呪われるんじゃないっスか?!」
「何故、我々が呪われなきゃならんのだ?!」
「だって、事故に見せ掛けて殺したのは俺達じゃないっスか! 指揮を執ったのは頭ですよ!」
「何を言うかっ!!」


遂に吐いたか。
と言っても、白状したのは頭ではなく下の連中だが……。


「もう、その辺で良いのではないのか? いい加減、観念して全てを話したらどうだい? ねぇ、頭。」
「何の事か分かりかねます、アフロディーテ様。」
「ここにきて、まだシラをきるつもりかい? 往生際が悪過ぎるよ、キミは。」


扉の前で成り行きを見守っていた私だったが、ここまできたら白状したも同じ事。
そう思い、部屋の中央にいる彫刻師達へと歩み寄った。
勿論、狙いは頭に『自白』を促すためだったのだが……。


「コヤツ等が世迷言を言っているだけです、本気になされますな。」
「まだ白状する気はないのかい?」
「白状も何も、私は何も隠してなどおりませんが。」


何とも面の皮の厚い男だな、よくもヌケヌケと知らない振りを出来るものだ。
自分の部下達が皆、恐怖に怯え、罪を認めているというのに。


「あー、じゃあ、コイツ等は全員、しょっ引いて、牢にぶち込んじまうぜ。何せ、殺したって認めたンだからなぁ。で、テメェは一人、のうのうと知らぬ存ぜずを押し通しゃ良いさ。牢に入ったヤツ等の恨みをたっぷりと買ってなぁ。」
「デスマスク様っ?!」


背後から聞こえた声に振り返れば、扉のところには、やはりというか、ニヤリといつもの笑みを浮かべたデスマスクが立っていた。
全く、裏方だけでは飽き足らず、表にまで出てくるとは……。


「テメェの誘いに乗ったばかりに自分達は牢にぶち込まれ、等の本人は『知らない』とあっちゃあ、コイツ等、絶対に納得しねぇだろうぜ? さて、頭。どうするよ?」
「ぐ……。」


コレで決まりだな。
なんだかんだで良いところはデスマスクに持っていかれてしまったが、どのみち、彼がいなければ白状させる事も出来なかっただろうから、感謝こそすれ、悔しさなどは何処にもない。
私はただ、アレックスの無念を晴らせれば、それだけで十分なのだ。


チラリと振り返って、背後にいたアレックスの様子を見る。
彼女は握り締めた両手を胸に当て、ギュッと目を瞑っていた。
これまでの事、父への想い、悔しさ、辛さ。
その胸にある諸々の想いを、深く噛み締めているのだろう。
閉じた瞼の奥、手を当てた胸の内。
アレックスは父親へ、言葉に出来ない想いの全てを送っているに違いないと、その姿を見つめながら、私は思った。





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