「帰ろう、……。こんなところに長居は無用だ。」
「え? あ、あの……。」


サッと踵を返した私は、何処か勝ち誇った顔をしている彫刻師の頭と、唖然と私達を見ていた作業員達にあっさりと背を向け、ツカツカと出口に向かった。
その後を、アレックスが慌てて追い駆けて来ているのが気配で分かる。


そうだ。
どうせ正面から話し合っても分からないのなら、少々ズルい手を使ってでも彼等に自白させるしかない。
正直、こういうのは私らしくないのだがな。
だが、致し方ないだろう、このような状況では……。


誰からも見えていないと分かっていて、私は口元にニヤリと笑みを浮かべた。
あぁ、この笑い方はきっと、私に不釣合いで、非常に下品だろう。
まるで、あの男、デスマスクのようじゃないか。
そう心に思いながら、彼等に向けた背中から笑いが伝わってしまうのではと、それ以上の笑みはグッと堪えた。


と、その時――。


「うわあぁぁぁ! な、何だ、コレは?!」
「ひっ! か、顔っ?!」


始まったか……。
流石に、こういう事には慣れたものだな、あの男は。
子供でもあるまいに、こういった悪戯になると目を輝かせているに違いない。
今、この場にはいないあの男のニヤリ笑顔を思い浮かべると、苦い笑みが浮んでくる。


私は何気なくを装って振り返った。
しかし、どんな顔をしていたところで、誰も気付かなかった事だろう。
皆、そこかしこに現れた謎の『顔』に気を取られていたのだから。


「これって……、死仮面じゃ……。」


私からやや離れて立っていたアレックスが、ボソリと呟くのが聞こえた。
やはり、彼女には分かるか。
それはそうだな、分からない筈がない。
しかし、彼女の呟きは混乱した皆の耳には届いていなかった。
ホンの小さな呟きだったし、部屋の壁中に現れた気味の悪い『顔』に気を取られて、彼女に注意を払う者など誰一人いなかったから。


「な、何だよ、コレ?! 何なんだ、コレは?!」


青褪めた表情で部屋の壁一面に現れた『顔』に身を震わせる男達は、後退りをしながら、いつの間にか自然と小屋の中央に集まっていた。
その様子を、私とアレックスは扉の直ぐ前から黙って見ていたが、誰一人として私達に注意を払う者はいない。
まるで安っぽいお化け屋敷のように、私には思えた。
だが、それも男達にとっては非常に恐ろしい物だったのだろう。
身を寄せ合い、隣にいる相手の腕を掴んだりしている者もいる。


小屋の中央、その一箇所に集まった彼等の眼前。
刹那、一番広い面の壁にびっしり現れていた『顔』が、スッと横に移動する。
だが、それと入れ替わりに、ゆっくりと、ぼんやりと、一つの『顔』が徐々に徐々に浮かび上がってきていた。





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