「あの頃のミロ様は、私が唯一、普通にお話が出来る同年代の相手でした。だから、とても嬉しかったですし、楽しかったんです。でも……。」


自分と楽しそうに話している様子を誰かに見られたら、ミロの立場が悪くなる。
父親が『彼は将来、必ず黄金聖闘士になれる』と、断言していた相手だ。
こんな自分と深く係わってはいけない、彼のためにも……。


「だから、いつもあんなに素っ気なかったんだな。」
「どうして良いか分からなかったんです。父親以外の人と話すなんて、殆ど無しに等しかったんですから。」
「それで今も、俺の行動を非難するのか?」
「それは、どうして良いのか分からないのではなく、私がミロ様の傍に居て良い人間ではないからで――、っ?!」


アレックスの言葉が途切れたのは、向かいに座っていたミロが身を乗り出し、彼女の方へと腕を伸ばしたからだった。
その手はアレックスの髪に触れ、掬い上げて彼女の左耳に掛けると、露わになった頬に、そっと触れた。
ピクリと小さく揺れた身体。
だが、アレックスの身体は固まったまま、それ以上は動かなかった。


「手、振り払わないんだな?」
「そのような事、私には……。」
「でも、手を離してください、くらいの事は言えるだろ?」


アレックスは答える代わりに、静かに目を伏せた。
そんな彼女の表情を見て、ミロは手を離し、再びソファーに腰を落とした。
それでもアレックスは視線を上げず、目を伏せたままだ。
ミロは溜息を一つ吐き、静かに話し始めた。


「知ってるか? 俺達、黄金聖闘士の殆どが、家族の事を知らない。出自不明だったりもする。」
「……そうなのですか?」
「理由は様々だが、犯罪が絡んでる場合も多い。デスマスクやアフロディーテ、それにサガも……。」
「サガ様が?」


幼い頃のデスマスクとアフロディーテは、生まれ持っての特殊な能力のためにマフィアに買われ、重大犯罪の片棒を担がされていたと聞く。
シュラは、自身の中で増大する小宇宙をコントロール出来ず、無意識化の状態で殺戮を繰り返していた子供だったらしい。
三人共、幼少時に聖域の人間に発見され、保護された事で、その特殊な能力を黄金聖闘士としての力に変える事が出来たのだ。
サガとカノンは聖域生まれの聖域育ちではあったが、雑兵だった父親が外部に聖域の情報を売り渡そうとした事で死罪になっている。
その劣等感故に、アイオロスに対する対抗意識が人一倍に強くなった事が、後の騒動の根幹にあったとも言えた。


ジャミールの一族であるムウや、黄金聖闘士を父とするアイオロス・アイオリア兄弟達の方が、珍しい存在なのだ。
そんなアイオリアですら、裏切り者の弟として誹謗中傷の中で生きてきた。


「俺だって孤児院の出身だ。親は何処の誰であるかも知らない。もしかしたら、俺の親だって犯罪者だったのかもしれない。」
「ミロ様に限って、そのような事は……。」
「ないとは言い切れない。俺だって、この身体にどんな血が流れているのか分からないんだから。」


黄金聖闘士である俺達だって、犯罪とは切り離せないところにいた。
だったら、アレックスが母親の事を気にする事なんてないのだ。
ミロは、それを告げようと口を開いたが、しかし、察したアレックスは、その言葉が紡がれる前に、首を横に振っていた。





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