「それは黄金聖闘士様だからこそ許されるのです、ミロ様。」
「そんな事はないだろう。」
「そんな事はあります。例え、どんな過去を持っていても、黄金聖闘士様の力は、この聖域にとって、なくてはならないものです。皆様は、自らの実力で今の地位に立っている。父親の威光で女官になった私とは、根本的に違います。」


それも違う。
確かに、幼い頃のアレックスは父親の庇護の下、育ったのだろう。
余計な誹謗中傷から彼女を守る神官長の存在は、当然、周囲の反応にも大きく影響した筈。
だが、大人になってからのアレックス、女官として独り立ちした彼女は、その実力で今の立場にある。
決して、父親の威光などではない。
豊富な知識、冷静な判断力、何事にも正確で、間違いはシッカリ正す。
そんなアレックスだからこそ、黄金聖闘士付きの女官として、サガに頼りにされてもいるのだ。
現に俺の報告書は、彼女の添削なくしては成り立たない。
ミロは真っ直ぐにアレックスを見つめて、彼女の本質を瞳の奥に透かし見ていた。


「もう父親がどうのとか、母親がどうのとか、関係ないだろ。今のアレックスの立場は、自分で勝ち取ったものなんだから。」
「…………。」


サガは、彼女を守るために、そして、彼女の父親との約束を果たすために、今回のアスガルド派遣を決めた。
だが、ミロはそれに納得していなかった。
俺は俺の遣り方で、アレックスを守る、守りたい。
そう強く思い、願う。


そして、改めて気付くのだ。
自分自身の心が、何処に在るのかと。
ガミガミと口煩くて、厳しくて、相手にすると面倒で、事務仕事では天敵だと思っていた。
なのに、それが一番失いたくない大切な相手だったとは。
『階段を上り切ったところで、俺の運命を動かす何かに出会う。』
そう感じた数日前、そこで出会った彼女に失望を覚えた事が嘘のようだ。
実際に、あれは運命だった。
あの初夏の生暖かい風は、運命の瞬間を運んで来ていたのだ。


「アレックスはアレックスらしく、毅然としてれば良い。俺達、黄金聖闘士が相手だって、平然とバシバシ意見を言ったりするじゃないか。冷酷なまでにバッサリ叱ってくる事もあるし。」
「それは……、ミロ様が余りに酷いからです。書類の内容も、執務態度も……。」
「俺だけ? デスマスク辺りだって、相当に態度が悪そうな気がするけど。」
「あの方は、口は悪いですけれど、執務は完璧ですよ。書類に間違いがあった事すらないですもの。」


ならば、アイオリアはどうなんだと、ミロはアレックスに問う。
彼もミロと同じく、いつも報告書が真っ赤に添削されていた。
そして、そんな自分の書類を見ては唸り声を上げるのが、常の事となっている。


「確かに、アイオリア様の書類は、ミロ様と変わらず酷い有様ですけれど、彼は真面目に真摯に取り組んだ結果がそうなのであって、常に一生懸命ですから、改善する気も、やる気もなく放り出すミロ様とは違います。」
「成る程ね。つまりデスマスクやアイオリアと違って、俺にはアレックスの叱責が必要不可欠って事だ。じゃないと、俺の報告書は永遠に間違いだらけのままなんだから。」
「私が居ないのなら、居ないなりに、御自分で努力をしてください。」
「無理。さっき、あの丘でも言っただろう。俺はアレックスが居ないと堕落する一方だって。」


これが運命なら、ここで手離してはいけない。
諦めてはいけない。
そう強く思い、ミロはもう、一歩も退くつもりはなかった。
強引と言われようが、傲慢と言われようが、アレックスと離れてしまう事に比べれば、どんな罵りの言葉も、それは実に些末な事だと思えた。





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