アレックスの視線を背中に感じながら、シュラが長い坂道を下り始めた。
生垣の陰に隠れていたミロは、慌てて耳に集中していた小宇宙すら絶ち、横を通り過ぎるだろうシュラに気付かれぬように、完全に気配を消した。
が、相手は同じ黄金聖闘士、小宇宙を絶ったところで生垣の向こうに潜んでいる人物に気付かない筈がない。
シュラはミロの潜む生垣の真横でピタリと足を止めると、傍に居る人にしか聞こえないような小声で言葉を発した。


「意外と趣味の悪い男だったんだな。デバガメとは。」
「そ、そんな事は……。」
「ないと言うのか? では、何故、こんなところに隠れている?」
「そ、それは、その……。」


二人から離れた木の下に居るとはいえ、まだアレックスがシュラの背中を見続けている。
何故、そんなところで立ち止まっているのかと、彼女に不審に思われぬよう、シュラは止めていた足をゆっくりと進め、歩きながら小宇宙を使ってミロと会話を続けた。


『聞いていたんだろう? 俺達の……、俺とアレックスの会話を。』
『ま、まぁな……。』
『ならば説明の必要はないな。聞いていたとおり、俺は彼女に受け入れてもらえなかった。撃沈だ。お前は……、どうだろうな。』
『お、俺は、別にそんなつもりは……。』


シュラの鼻からフッと小さな笑みが漏れた。
そんなつもりがないのなら、何故、ココに居るのだと、そう言いたげな笑みだった。


『俺とアレックスなら相性は良いと思ったのだが、思い上がりだったようだ。どうやら彼女の好みは、母性本能を擽るタイプらしい。つまり俺のような男では、アレックスの心には引っ掛からない。俺では駄目という事だ。』
『今日は……、随分とお喋りだな。らしくない。』
『失恋の現場を見られたんだ。言い訳くらいさせろ。』


今度は自虐的にクックッと笑う声が、ミロの耳に届く。
拒絶されるとは微塵も思っていなかったのか、予想外の展開に、後は笑うしかないといった様子で、シュラは自らの失恋を語る。
ミロから見ても、シュラとアレックスの組み合わせはお似合いだと思った。
才色兼備、完璧を求める彼女には、シュラのような何事もスマートにこなせる男が、共に過ごす相手としては相応しい。
任務や後輩指南のような体力仕事だけではなく、執務や家事全般も、シュラなら何の苦労もないに違いない。
自分を相手にする時のように、アレックスにストレスを与えるような事もあるまいと、ミロは思う。
何故、シュラの提案を断ったのか、ミロにとっては不思議でしかない。


『まぁ、精々頑張るんだな、彼女の気を惹けるように。』
『だから、違うって言ってるだろ。』
『だったら、隠れる必要などなかったと思うが? 自覚がないのか?』
『そうじゃないって。』
『俺の姿が消えたら、早く行ってやれ。アレックスが待っている。』


その後に続いたミロの愚痴は聞き流し、一切、それには応える事なく、シュラの歩が早まる。
そして、数秒の後に、シュラの姿は教皇宮の方へと消えた。
チッと鳴らした舌の音が、虚しく空に響き、それが余計にミロの心の奥をザワザワと泡立てた。
別にアレックスに会うために、この場所に来た訳じゃないのに。
そう思いつつも、このままコッソリと戻る気には少しもなれなかった。





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