季節外れのガーデン



キキィッと耳障りな音を響かせる裏木戸。
今にも壊れてしまうのではないかとヒヤヒヤしながら慎重に木戸を閉じ、中に広がる庭へと足を踏み入れる。


以前、ココを訪れたのは初夏の事。
その時には、辺り一面を彩る薔薇が、そこかしこに権勢を誇る勢いで咲き誇っていた。
薔薇の茂み、薔薇の壁、薔薇のアーチ。
薔薇に埋もれた、先の見えない迷宮のような庭。
だが、その見事な庭も、僅か八ヶ月足らずで荒廃してしまっていた。


「違うよ、アレックス。廃れた訳じゃない。時期を過ぎた薔薇の庭は皆、これと同じようなものだ。」
「……え?」
「枯れ果てた薔薇は、このように寂しいものさ。」


真冬の今、薔薇の迷宮は何処にも見当たらなかった。
あんなに鬱蒼と茂っていた緑も姿を消し、迷路どころか、ガランとした空間が広がっているばかり。
薔薇の芳香に惑わされていたのもあるのだろうが、あの迷宮は方向感覚を狂わせて、自分が何処にいるのかも分からなくしていた。
だけど、それが跡形もなく消え去った今は、楽に見渡せる程に、ココが狭い庭だったのだと気付かされる。


「ディーテの薔薇園は、決して枯れたりはしないわ。」
「あれは特殊だからね。普通はシーズンが終わると枯れ、また季節が巡ると生い茂る。この庭もそうさ。」
「また咲くの? こんなに土気色になってしまった庭に、薔薇が?」
「咲くよ。それが自然の姿なのさ。私の薔薇園が不自然なだけ。アレは私の小宇宙を注がれて、不自然に咲き続ける事を強いられているだけ。」


少し歩くと東屋に辿り着いた。
薔薇の迷宮を彷徨っていると、突如、庭の真ん中辺りに現れる東屋。
だが、何もなくなった今は、裏木戸から僅かばかり左手に進んだ所にある事が分かる。
こんなに傍にあったんだわ。
どれだけ迷わされていたのだろう、あの薔薇達に、あの薔薇の香りに。
不思議な感覚で東屋の木戸を開いて中に入った。


「本来は枯れるべきものを、無理に咲かせ続ける。自然の摂理に反する行為だけど、私にとって薔薇は大事な凶器だからね。」
「凶器……。」
「そう、武器を持たない聖闘士ではあるけど、自らの小宇宙で生み出した薔薇は一種の凶器さ。いや、狂気と言っても良いかもしれない。」


東屋に入ると同時に、ディーテの腕が力強く私を引き寄せて、背後から抱き竦められた。
コートの隙間を縫って、内側へと入り込んでくる美しい手。
その手は薔薇達に小宇宙を与えるように、私の身体にゾクゾクとした切ない感覚を与えていく。


「もしかして……、ココで?」
「そう。いや?」
「だって……。東屋だけど、ココは外だし……。」
「キミもね、私の狂気に触れてしまっているのさ。だから、アレックス……。」


観念しろと?
薔薇の香りに惑わされるように、彼の魅力に惑わされ、流されてしまえと?


「あっ……。」
「しっ。声は抑えて。」
「でも、声、出ちゃうから……。あっ。」
「我慢して、アレックス。ほら、入るよ。」
「ああっ。あっ、んっ……。」


コートの裾を捲り、スルスルと下着を引き下げられて。
後ろから私の中に侵入してきた彼は、気温の低さと反比例して、溶ける程に熱かった。
遠慮なく突かれる度に、堪えきれずに漏れ出る嬌声が、寂れた灰色の庭の中にこだまして響く。


もし、これがディーテの狂気というのなら、彼の薔薇達と同じように、私も鮮やかに咲き続けられるのだろうか。
彼の毒を受け、彼の毒を内に潜めて。
枯れる事のない庭となり、訪れる者を惑わす迷宮となるのだろうか。


「あ、ああ……、あっ。」
「アレックス、クッ……。」


狭い内側を溢れるばかりの熱情に満たされ、ブルリと震え上がる二つの身体。
頬を掠める冷たい風、身体に籠もる震える熱。
廃れた寂しい庭の片隅で愛を交わし合いながら、頭の中では、ボンヤリとそんな事を思っていた。



枯木に命を灯すほど熱く



‐end‐





お魚さまと言えば薔薇園。
という事で、敢えて枯れた冬の庭を舞台にEROを書いてみたら、ただの青姦になったとかいう(苦笑)
いや、辛うじて東屋の中だから! 外じゃないから! 半分は外だけど! などと言い張ってみますw

2018.01.30



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