身軽な冬の装い



サラリしたシーツが肌に触れる心地良い感覚にウトウトと目を閉じ掛けていた私の意識は、ギシリと沈んで揺れたベッドの振動で、再び現実に引き戻された。
素っ裸のデスが――、文字通り何も身に着けず、腰にタオルすら巻きもせずに窓辺に立ち尽くしている後ろ姿が視界に映り、私はダルい身体を反転させて、重い頭を持ち上げる。
いくらココが地上二十階を越えた高層にある部屋とはいえ、そんな格好で窓に向かっているのは刺激的過ぎる。
私は呻きに近い呆れの声を上げた。


「何、アレックス? まだ怒ってンのか。」
「怒っているんじゃないの、呆れているのよ。その見事なお身体が自慢なんでしょうけど、余りに破廉恥だわ。」
「見えねぇよ、こンな高ぇ位置じゃ。見えてンのはオマエだけ。」


クルリと振り返った全身が、窓から差し込む陽光に照らされて、見慣れた私ですら刺激的だ。
病的に真っ白な肌は、普通の人なら誰しもがある飾りを一切持たず、生身の肉体が剥き出しになっていて。
異様とすらいえるのに、それが眩しい程に美しくすらある。
この人だけの特別な『カラダ』。


「確かに、飾りなんて何一ついらないのかもね、デスには。」
「やっぱ怒ってンじゃねぇか、アレックス。」
「そりゃあね。美味しいコース料理でも堪能出来るかと期待していたんだから……。」


今日の行き先が、誰もが知る有名ラグジュアリーホテルだと聞いた時は、心が躍った。
普段は何処ぞの不良みたいに、だらしのない服装が多いデスではあるけれど、キチンとした大人の着こなしもスマートで似合う人だ。
私も気合いを入れて、いつもよりも上品に、正装に程近い装いに身を包んで行ったのに……。


待ち合わせの場所に現れたデスは、いつものデスとまるで変わらなかったのには、驚きを通り越して唖然としてしまった。
濃いグレーのTシャツに、深いインディゴのパンツ。
その上から、フードにフワフワのファーの付いた黒いダウンジャンパーを羽織っているだけの、至って身軽な服装。
ちょっと近所に買物にでも行ってくる、みたいな。
言葉を失っている私に向かって御丁寧にも、「イイじゃねぇか、どうせ直ぐに脱ぐンだから。」と止めの一言まで付け加えてサッサと歩き出す。


こんな軽装じゃホテルの人に追い出されるんじゃなかろうかと、ビクビクしていたのは私だけだった。
デスは変わらぬ尊大な態度で、堂々と風を切って歩き、ロビーでもフロントでも、周囲の人達に好奇の目を向けられようと何ら気に掛けなかった。
そして、そのまま今居る、この部屋に直行だ。
有名シェフが料理長を務めるレストランで食事をする事もなく、夜景を楽しみながらバーでカクテルを飲むなんて事もなく、朝のこの時間までひたすら睦み合っていた。
彼の言葉通り衣服なんて『直ぐに脱ぎ捨て』てしまい、気合いを入れたカシミアのコートも、ベロアのワンピースも、ロクに陽の目を見ないまま終わったに等しい。


「知ってるか、アレックス。予約ナシじゃ入れねぇンだよ、あのレストラン。」
「この部屋はあらかじめ予約してたっていうのに?」
「部屋は数日前でも押さえられンの。だが、レストランは一ヶ月先まで満席だとよ。」
「それで諦めたの? だったら、泊まるだけでしょ。こんなに高級なホテルじゃなくても良かったじゃない。」


ギシリと音を鳴らしてベッドの上に舞い戻ったデスは、片眉を上げて肩を竦めた。
たまにはこういう贅沢も悪くないと思ったらしい。
現実離れした高価なホテルの一室に二人きりで閉じ籠もり、我を忘れて愛欲に溺れる、そういう贅沢も。


「食いモンの恨みは怖ぇな。アレックスが、そンなにレストランに固執するとは思わンかったわ。」
「違うわよ。私が固執してるのは食べ物じゃなくて、着るもの。」


シックでスマートな黒のウールコートを羽織ったデスは、さぞかし格好良いだろうと思っていたのに。
そんな彼をホワンとして眺めるのが楽しみだったのに。


彼は慣れた動きで私を組み敷くと、「悪かったよ。」と耳元で囁く。
その巧みに探り導く指の動きには、余り反省の色は感じられない。
私が諦めを色濃く滲ませた溜息を吐き出すと同時、デスが後ろから深々と私の奥まで貫いた。



衣服という隔たりを捨てて



‐end‐





ハイブランドの冬コートとか、大人の素敵な装いを蟹さまに着こなしていただきたいと思う反面、いつもの軽装ですら一段階上に見えるのが彼なんだろうなと。
足の長さ的にも、態度的にもw
それで夢主さんをガッカリさせるまでがワンセットです。
という事で、エロ薄めになりました(という言い訳)

2018.01.28



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