それは吹雪か春風か



薄ぼんやりとした闇が徐々に晴れ、ゆっくりといつの間にか朝が訪れている。
冬の夜明けは遅い。
気付けば明るさの増した窓の外の景色。
腕時計が示す時刻は、朝の七時十分前だ。


「おはようございます、シュラ様。」
「アレックスか。早いな……。」
「早いって……。もう七時ですよ。シュラ様は朝帰りですか?」


広い城戸邸を奥まで進み、自分に割り当てられた部屋のドアノブに手を掛けた時、廊下を静かに歩いてきたアレックスに声を掛けられた。
腕には剥いだばかりと思われる真っ白なシーツと枕カバーを引っ掛けている。
ビシリと着込んだ黒いメイド服と白い清楚なエプロンが、穏やかな彼女の笑みもあって、ヤケに眩しい。


「朝帰りではない。任務帰りだ。」
「任務だろうと、朝帰りは朝帰りです。違いはありません。」


クスリと笑ったアレックスには、まだ薄暗さの残る外の寒さなど関係無いようだった。
彼女の温かな雰囲気に触れると、自分が今、冬のトウキョウに居るのだという事を忘れそうになる。
ホンの二日前、このトウキョウが大雪に見舞われたのが嘘のように、アレックスの周囲だけに春の風が吹いているように感じられた。


「お前の笑顔は癒される。」
「……え?」
「いや、何でもない。気にするな。」
「あの……、シュラ様。」


アレックスの笑顔がスッと消えた。
感情の読み取れないその真顔に、俺はドアノブに掛けたままだった手を引っ込める。
どうかしたのだろうか?
真っ直ぐに彼女を見遣ると、ピタリと止まっていた動きの中で、その白く小さい手だけが、持っていたシーツの端をギュッと握り締めている事に気が付いた。


「どうした?」
「私も……、これをリネン室に運べば、それで仕事が終わります。今日は夜番でしたので……。」
「そう、か。」
「あの、もし……。もしシュラ様が、もっと癒しを求めているのであれば、この後の時間は……。」


貴方にお渡しします。
最後は消え入りそうな声で囁く。
まさかのアレックスからの誘い。
にこやかで、穏やかで、柔らかな、春の風のような彼女が、俺との時間を望むとは。
冬の寒さを分かち合い、互いの体温を与え合いたいと……。


刹那、身体中にカァーッと熱が広がった。
俺の一番原始的な欲が一気に湧き上がり、自身の男を主張する部分に意識が集中していく。
俺は、直ぐにもアレックスを部屋の中へと引き摺り込みたいと思う衝動を、必死で抑え込んで、至って平然な様子を装い、コクリと一つ頷いてみせた。


***


「あっ……、ああっ……、あ、んっ。」


華奢でなだらかな背中に、アレックスの黒い髪が揺れる。
跳ねる白い背の上で踊る艶やかな黒髪の、何とエロティックな事か。
思わずタガが外れて、彼女の狭い奥深くを、激しく早く何度も突き上げた。


「ああっ! あっ! はぁっ!」
「声、聞こえるぞ。そんなに高く上げていると。」
「し、シュラ様が……、激し……、からっ……。あっ、あっ……。」
「フッ。アレックスが、こんなに感じてくれるとはな。」


俺は激しかった動きを抑え、緩やかにゆっくり、それでいて的確にアレックスの中を擦り上げる動きに変える。
激しい動きには激しく、穏やかな動きには穏やかに。
だが、どちらも同じだけの感度で応えてくれるアレックスに、俺はドンドンはまっていった。


「恥ずかしくないのか? 朝から、こんなに乱れて。」
「あ、朝とか……、関係ない、です……。んっ、ただ……。」


この寒い季節の中、貴方の熱で満たされたいの。
途切れ途切れに吐き出された言葉が、俺の心臓を鷲掴みする。
一気に昇り詰めてしまいそうになるのを何とか堪えて、俺は再び激しくアレックスの中を攻めた。
そして、彼女の肩に手を掛け、その身体を繋がったまま巧みに引っ繰り返す。
真っ直ぐにぶつかる二つの瞳。
熱に潤んだアレックスの瞳が、抑え込んでいた最後の枷を外した。


「あっ! あっ! はっ!」
「クッ……。」


ラストスパートは全力だった。
全力でアレックスを抱き、彼女の望み通りに、俺の熱で満たしてやりたいと思った。
両膝を抱え上げ、両足を大きく開かせて、一番深い場所を力強く突く。
これまで何人もの女と関係を持ったが、こんなにも燃え上がったセックスは初めてだった。


「ああっ! ああー!」
「フッ、クッ……。」


全てを解放し、願いのままに俺の熱をアレックスの内側いっぱいに注ぎ込んだ。
そして、急速に訪れる充足感。
そうか……。
彼女は春風などではない、冬の嵐だったのだ。
俺の心をアレックスという真っ白な色に塗り潰した、激しい吹雪。
こんな風に彼女だけで埋め尽くされる事、新たな喜びを知った俺は、もうアレックスを手離せないのだろうと気が付いた。



冬の嵐は止まる事を知らない



‐end‐





山羊さまは日本人美女に弱いというのが、我が家の基本設定ですw
そして、Hは激しいのがお好き(爆)

2018.02.08



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