にしてもだ。
少し擦り寄り過ぎじゃないのか?
アレックスにシッカリと抱かれているからといって、首やら鎖骨やら剥き出しの肌に、そんなに頭を擦り付けるもんじゃないだろう。
雄だというなら、相当なムッツリ猫だな。


何だか段々とイラついてきた。
そして、激しくムカついてきた。
何なんだ、この沸々と湧き上がる怒りの感情は?
何なんだ、この腹の底が煮えくり返るような腹立たしさは?
耳でも髭でも体毛でも、ムンズと引っ掴んで、ブチブチ毟り取ってやりたくなる。


そんな感情を素直にアレックスへと吐露すれば、目を見開いて俺の顔を覗き込んできた。
そんな表情も愛らしいのだが、その真横に見えている小さな猫の顔が、激しく小憎たらしい。


「アイオロス様……。それは、もしや嫉妬では?」
「俺も嫉妬? 嘘だろ?」
「アイオロス様。今まで、嫉妬の御経験は?」
「ないなぁ……。嫉妬がどういうものかも、正直、良く分からん。」


子供の頃から、誰かに嫉妬するという場面に出くわす事がなかった。
幼い頃より、聖闘士としての実力は誰よりもあったし、その分の努力も人一倍してきた。
他人の事を妬むよりも、自分が為さねばならない事が山とあった。
それに、サガの知識量と真面目さと清廉さを羨ましいと思う事はあっても、アイツに対して嫉妬などした事もなかった。


成る程。
このどうしようも出来ない負の感情、自分の中でモヤモヤと渦巻く黒い渦が『嫉妬』だというのなら、そうか。
俺は嫉妬初体験という訳か。


「アイオロス様は本当に面白い方ですね。」
「俺が面白い?」
「その年で嫉妬初体験だなんて。しかも、その相手が猫ちゃんだなんて。」
「ミャオン。」


アレックスがクスリと笑うと同時、その腕の中の猫まで、同意するかの如くに高い鳴き声を上げる。
これは馬鹿にされているのか?
嫉妬を初体験出来たとはいえ、余り良い気分ではないな。


「そもそも、嫉妬自体が良いものでも良い気分のものでもありませんからね。」
「まぁ、言われてみれば、そうか……。」
「お互い嫉妬し合ってないで、少しだけでも歩み寄ったら如何ですか? アイオロス様も、ケイロンも。」


アレックスから差し出されたヒョロンと細い猫の身体を、反射的に受け取った俺。
猫など抱いた事もないから良く分からんのだが、こうか?
こうで良いのか?
人間の赤子だったら慣れているのに。
アイオリアに抱っこやらオンブやら、いつも強請られるままに抱き上げていたから。


「アイオリア様と猫ちゃんを一緒にしては駄目ですよ、ふふふっ。」
「ミャオッ。」
「そんな事を言ったって、猫の抱っこも初体験なんだから仕方ないだろう。」


てんてこ舞いな俺を見て、更に笑いを深めるアレックス。
俺が正しく抱っこしてくれる事は、この調子では望めないだろうと、スッカリ諦めモードの猫。
益々、焦る俺。
初体験尽くしの俺には、まだハードルが高いのだ、何もかも。


「よし、決めた! コイツを人馬宮で飼おう!」
「え、飼うのですか? さっきまで嫉妬していた猫ちゃんを?」
「そう。絶対にコイツと超絶仲良くなってみせるぞ。猫の抱っこも、猫の扱いも、聖域イチだと言われるようになってやるさ。」
「つまり、嫉妬した儘ではプライドが許せないって事ですね。流石は、これまで常に上位に君臨していた方は違います。」
「ん? どういう意味だ、アレックス?」


少し引っ掛かるが、まぁ、良い。
直ぐにこの猫も、彼女よりも俺の方に懐くようになるさ。
人だろうと、猫だろうと、関係ない。
皆、俺が好きになると決まっているのだから。



と暮らす日々
傲慢男と暢気猫の共同生活



(ほうら、高い、高〜い!)
(ミャミミャッ?! ミギャー!)
(あ、アイオロス様っ! 猫ちゃんは赤ちゃんとは違います! そんな事をしては嫌われるだけですよ!)



‐end‐





爽やか笑顔の下に隠れる、自信満々過ぎな(ウルトラ傲慢)ロス兄さんw
自分が下位に立つ事自体が、あってはならないと思っていて、それが当然な人w
だからこその『聖域の英雄』なんです、きっと^^;

2017.01.19



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