と一緒



この頃、ヤケに視線を感じる。
しかも、鋭くて、やや殺気立った視線を。
だが、振り返ったところで誰もいないのは分かっていた。
背後からは人間の気配など微塵も感じないのだ。
感じ取れるのは、揺れる木々や草むらに潜む動物の息遣いなど、自然世界のものばかり。
それが証拠に、ほら。
振り返った先の十二宮の階段には、猫が一匹、ノンビリと座っているだけ。


…………猫?


そういや、あの虎縞の猫。
昨日も同じように振り返った際に居たような?
昨日だけじゃない、一昨日も、その前も、度々、こうして見掛けているような?


「……アイオロス様!」


パタパタと駆け寄ってくる足音に、元々、俺が向かっていた方向、自分の宮の入口へと視線を戻す。
すると、いつも俺の帰宅を迎えてくれる女官のアレックスが、コチラへと向かって階段を小走りに上がって来ていた。


「どうした、アレックス?」
「いえ、アイオロス様が立ち止まってらっしゃったので、何かあったのかと思いまして。」
「いいや、何もないさ。」


そう言いつつも、視線をチラと階段の上、虎縞の猫の方へと送ってしまう。
猫は相変わらず、階段の途中にチョコンと座ったまま、俺の事をジッと見下ろしていた。


「あら、ケイロン。どうしたの、こんなところで?」
「……ケイロン?」
「あの猫ちゃんの名前です。多分、磨羯宮にいっぱい集まっている猫ちゃん達の一匹なんですけど、毎日、お昼前頃に人馬宮に遊びに来て、夕方には帰っていくんですよ。」


知らなかった。
俺の宮に、猫が出入りしていたなんて。
しかも、どういう訳か、俺の居ない時間帯に入り浸っていたなんて。


「きっと、その時間帯は私が一人ぼっちで宮内にいるから、寂しいだろうと思って来てくれているんですよ、ケイロンは。」
「俺の休みの日には、一度も見掛けた事はないが。」
「そうですね……。アイオロス様の気配を感じる時は、中に入らず、引き返しているのではないでしょうか。」


そんなに気の利く猫がいるだろうか?
俺が居るから遠慮する、だと?
まさか、人間のように空気を読んだりするとは思えない。


「俺は何かと睨まれているぞ、あの猫に。」
「ケイロンにですか? まさか。」
「しかも、毎日だ。今も、殺気を感じて振り返ったところだったんだよ。」
「でも、そんな、う〜ん……。」


可愛らしく首を小さく傾けて、少しだけ考え込んだ後、アレックスは離れた猫の元に向かって階段を駆け上がった。
彼女が近付くと、「ミャオン。」と細い鳴き声を上げる猫。
自分に向かって伸ばされたアレックスの手に、躊躇いなく飛び込んでいく。
そして、シッカリと収まる腕の中。


「もしかして……、嫉妬かもしれません。」
「嫉妬?!」


猫を抱いて俺の横に戻ってきたアレックスの言葉に驚いて、思わず素っ頓狂な声が出てしまった。
だが、そんな声が出る程に、突拍子もない返答だったのだ。
猫が嫉妬なんて、まさか、まさか。


「有り得なくはないと思います。ケイロンとは毎日、仲良く過ごしていますので、アイオロス様が宮にいらっしゃる時は、私の隣という定位置を奪われた気がしているのではないかと。それに雄ですから、この子。」
「だが、それにしたって……。」


嫉妬ねぇ。
チラと猫の方を見遣ると、アレックスからは見えていないのを良い事に、どうだと言わんばかりに勝ち誇った顔をし、フンと鼻から息を吐いたではないか。
どうやら、この猫が嫉妬しているというのは、笑い事でも、嘘偽りでも無さそうだった。





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