と一緒



「ニャオン。」
「…………。」


午前中の修練を終えて十二宮へと帰って来た俺は、自宮の入口で呆然と足を止めていた。
獅子宮の入口に鎮座する二体の獅子の像。
その右側の像の頭に、ちょこんと乗っている一匹の猫。
まるで獅子をそのまま小型化したような姿の猫は、そこに太陽の光が燦々と当たるからだろうか。
目を細めて、気持ち良さそうに伏せている。


「何故、こんなところに猫が?」
「……うぉ〜い!」
「デスマスク?」


獅子の頭上の猫を、ただただ眺めていた俺の背後。
デスマスクが手を振りつつ階段を駆け上がってきた。


「こンなトコにいたのかよ、蟹之介。ったく、探したンだぜ。」
「蟹之介……。この猫の名か?」
「おう。悪ぃな、迷惑掛けて。」


どうやら巨蟹宮で飼っている猫だったらしい。
獅子の頭の上からヒョイと簡単に抱き上げ、自らの腕の中へと移動させたが、その猫は嫌がる素振りすらみせなかった。
それどころか、スリスリと頬に擦り寄って、ゴロゴロと嬉しそうに喉まで鳴らしている。
この見た目も中身もマフィアのような男に、こうまで懐いているとは、正直、驚いた。


「お前は不思議だとは思わんのか?」
「あン? 何が?」
「こんなところに寝ていた事だ。」
「猫ってのは、こういうトコが好きなンだよ。塀とか屋根とか。シチリアじゃ、こういう石像の上に猫が乗ってるなンざ、ザラに見る光景だぜ?」
「そうなのか?」


俺の反応に呆れたのか。
目を細めて一言、「ふ〜ん。」と俺を見遣った後、デスマスクは何故か蟹之介(猫)を俺に押し付け、「ちょっと待ってろ。」と言って、十二宮の上へと駆けていった。
一体、何なのだ?
そう思ったのも束の間、デスマスクは瞬きの後に直ぐ、俺の目の前へと戻ってきていた。
その腕に、蟹之介とは別の猫を抱えて。


「シュラんトコから、一匹もらってきた。」
「……は?」
「そンなに興味があンなら、コイツの事、暫く観察でもしてみろ。」
「それは、どういう……?」
「ンじゃあなぁ。」
「オイ! ちょっと待て、デスマスク!」


先程まで自分の猫がいた場所――、獅子像の頭の上に、抱えてきた猫を乗せて。
デスマスクは俺の手から蟹之介を奪い返し、さっさと階段を下りていった。
我に返った俺が呼び止めても、時既に遅し。
奴の背中は遙か彼方だ。
俺の横には、獅子の頭の上で欠伸をする暢気な猫が一匹、残っているだけ。


「どうしろと言うのだ……?」


困惑気味に猫を見遣る。
デスマスクの猫と同じく、獅子の耳と耳の間に伏せ、スリスリと顔を頭頂部に擦り付けている茶トラの猫。
自由気儘で良い気なものだな。
最近、皆が次々と猫を飼い始めているというが、それも、この気儘さに惹かれての事かもしれない。


そうだ。
何故、こんなところに乗っているのか、猫の気持ちを理解したいのなら、同じ行動を取ってみるのも良いかもしれん。
不意にそんな事を思い付き、左側の像に跨ってみたのだが……。


「何をしているのです、アイオリア様?」
「っ?! アレックスっ?!」


何と、こんな馬鹿な事をしている姿を、女官のアレックスに見られてしまった。
全身から噴き出す汗。
異常なまでに胸を打つ心臓の鼓動。
だが、ここでたじろいでは、黄金聖闘士として、獅子宮の主としての面子と威厳が失われてしまう。


「ね、猫の気持ちを知るには、お、同じ行動を取ってみるのが一番だからな。」
「はぁ……。」


偉ぶって、アレックスに、そう言い切ってはみたものの。
間違いなく、俺の顔は真っ赤だったに違いない。





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