「……で、いつまで、こんな事を続ける気ですか?」
「それは勿論、猫の気持ちが理解出来るようになるまでだ。」


言い出したからには引っ込める訳にもいかず、俺はそのまま猫と同じ行動を取り続けていた。
プライベートルームの中に入った後も、茶トラの猫の後を追い、四つん這いで部屋の中をウロウロと。
猫がピタリと止まって顔を掻けば、俺も同じように顔を掻いてみる。


「何と言うか……、意外と似合いますね。」
「そう言われても、正直、嬉しくはない。」
「アイオリア様って、何処となく猫ちゃんと似ていて、見ていて可愛らしいです。」
「それも嬉しくない言葉だ。」
「それで、そろそろ分かってきましたか、猫ちゃんの気持ち?」
「いや、まだだな。」


俺は猫の行動から目を離さずに答えた。
ソファーに腰を掛け、俺と猫の様子を眺めながら、取り込んだ洗濯物を畳んでいるアレックス。
表情では平静を装っているが、声には明らかに笑いが含まれている。


「この猫ちゃん、ブリティッシュ・ショートヘアでしょうか。筋肉質ですし、肉付きが良くてふっくらしていて。毛色も金茶に濃茶の縞ですから、アイオリア様に良く似ています。」
「だから、嬉しくないと言っているだろう。」


顔を掻き終え、今度はアレックスの座るソファーの周りを、グルグルと歩き出した猫。
それに倣って、俺もドタドタと四つん這いでソファーの周りを這う。
彼女は少しだけ迷惑そうに眉を下げ、俺達の行動を眺めている。


……と、目の前の猫が突然、ソファーの空いている場所、アレックスの隣へと飛び乗った。
ヒラリと軽く俊敏に。


「わ?!」
「ほう、そうきたか。」


俺は猫とは反対、アレックスの左側の空いたスペースへと飛び乗る。
猫と比べものにならぬ程に重い身体が乗った事で、ギシリと大きな悲鳴を上げるソファー。
その揺れに合わせて、彼女の身体もグラリと揺れる。


「わわっ?! アイオリア様まで?!」
「当然だろう。猫の気持ちが分かるまでは、同じ事をすると決めているんだ。」
「ミャオン。」


反対側を覗き見れば、猫はアレックスにピッタリと寄り添い、その小さな頭と細い身体を、彼女の脇腹へとスリスリ擦り付けているではないか。
なる程、このようにして愛情表現をするのか。
もしくは、仲良しアピールか。


「わっ?! えっ?! や、アイオリア様まで、何をなさっているんですかっ?!」
「何度も言わせないでくれ。猫の気持ちが分かるまでは、同じ事をすると言ったじゃないか。」


スリスリ……。


これは……、まさに猫の役得だな。
男の俺では絶対に出来ない、こんなハレンチな行動を、躊躇いもなく行えるとは。
猫の気儘さは、何をしても許される自由さ。
寝て、起きて、好き勝手に動いて。
時に、好きな相手に甘える事も、気分次第で出来るのだ。


「や、え、ちょっと……。あ、アイオリア様。わ、擽ったい……、やん。」
「少し我慢していてくれ、アレックス。俺が猫の気持ちを理解するまでは、な?」


本当は、もう分かり掛けてはいるのだが。
折角、こんなに良い体験が出来るのだから、ここはシラを切っておこうか。
猫に真似て、スリスリとアレックスの頬に自分の頬を擦り付けながら、暫くは、このまま猫真似ゴッコを続けようと、邪(ヨコシマ)な事を思っていた。



と暮らす日々
猫のように甘え上手に



(も、もう止めてください、アイオリア様〜。)
(いいや、まだだ。もう少しだけ……。)



‐end‐





誰かリアに「それはセクハラです!」と言って上げてください(苦笑)
調子に乗って、このまま彼女を押し倒し、抱き付いたまま「昼寝だ!」とか言い出しそうです、このリアにゃんはw

2015.09.27



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