アレックスと二人きりになれるチャンスが訪れたのは意外に早く、それから二日後の事。
任務も執務も後輩指南の当番もない休日に、運良く彼女の休日も重なったのだ。
前日のうちに、今日の午後のティータイムへのお誘いをしたところ、それは特別に珍しい事でもなかったので、彼女は快く承諾してくれた。


そして、今。
私の目の前には、優雅に紅茶を飲むアレックスがいる。
薔薇園の一角、白い丸テーブルを挟んで向かい側に座る彼女は、いつもの真っ白な女官服ではなく、柔らかいふんわりとしたアプリコット色のワンピースを纏い、咲き誇る薔薇達に負けない艶やかな微笑を浮かべていた。


「……美味しい。」


普段と全く変わらぬ穏やかな声、涼やかな表情。
先日の、あの涙は見間違いだったのではないかと思ってしまう程に、いつもと何一つ変わらない自然なアレックスの様子。


「アフロディーテ様の淹れてくださる紅茶は、香りといい、色といい、味といい、他とは比べ物にならない程の美味しさですね。」
「ありがとう。キミにそう言って貰えると、本当に嬉しいよ。」


いつもなら、こうして当たり障りのない会話で互いの距離を保ちつつ、ゆっくりとした時間を楽しむ。
それが何とも心地良くて、私はアレックスと過ごす時間を好んだ。
だが、今日は違う。
今日は安らぎの時間を求めて、彼女をココへ呼んだ訳ではないから。


「二日前だったかな。アレックス、この薔薇園に来てたよね?」


私の問い掛けに、彼女は何も言わずに目を伏せた。
間違いない、それは肯定の合図だ。


「泣いていた……、よね?」
「見ていらっしゃったのですか?」


彼女に回りくどい言葉を使っても無駄だ。
そうと分かっているから、一気に距離を詰め、話の核心へと迫った。


「偶然だけどね。」
「そう、ですか……。」


否定はしない、か……。
流石はアレックスと言ったところだ。
これが並の女性ならば狼狽しうろたえるのが普通だろうし、勢いに任せて適当に思い付く限りの嘘を並べて誤魔化そうとするものなのに。
彼女は動揺した気配すらみせず、顔色一つ変えずに、優雅に紅茶のカップを口に運んでいる。
幼い頃より長年、曲者だらけの聖域で働いているからなのか、こうした対応には慣れているのかもしれない。
冷静さを欠いた焦りは禁物、弱味を見せればお終いだと身に沁みて知っているのだろう。
だからこそ、否定すらせずに、曖昧に話を流すつもりなのだ、アレックスは。


「何かあったのかい?」
「プライベートな事ですので……。」


やはり、そうきたか。
この言葉は「これ以上、追求しないで。」という意味に他ならない。
こういう時の対処の仕方を良く分かっての一言だ。


整った秀麗な顔に浮かべた涼やかな微笑を、ホンの少しも崩さないアレックス。
いつもならば、美しい微笑を絶やさない、そんな彼女の姿を見ているだけで私は満足なのだけれど……。
だが、今はそういう訳にはいかなかった。
今日はあの『涙の意味』を追求するために、彼女をココへと呼んだのだから。





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