「アフロディーテ様、お茶をどうぞ。」


暑苦しい男ばかりの執務室。
うんざりするくらいに山積(サンセキ)した書類と格闘していた私のデスクに、アレックスがお茶を運んできてくれた。
あぁ、もうそんな時間なのか。
今日は時計が倍速で進んでいるような気さえしてくる。


「良い香りだ……。」


美味しそうな琥珀色が、白いティーカップの中で揺れる。
柔らかな湯気の立つ暖かい紅茶から漂うやや癖のある香りは、キーマンだろうか。
この香りと、この美しく透き通った紅茶の色。
それだけで、ホッと心が和んでくる。
正直、終わりの見えない書類の山に、あと少しで癇癪を起こしそうになっていたところだ。
そんな気配に気付いてなのか、気分転換も兼ねてとお茶を淹れてくれたアレックス。
何て素晴らしいタイミングだろう。


それに、この紅茶。
程良い濃さと、絶妙なお湯の温度。
その茶葉の最適な淹れ方を知っている証拠だ。
アレックスは頭が良いだけでなく、こういう細かな気配りや作法もキチンと身に着けている、そんな女性だった。
はっきり言って、この教皇宮、いや聖域全ての女官達が淹れてくれるお茶は酷いものばかり。
全て不合格。
自分で淹れた方が、ずっとマシ。
それで良く女官が務まると思う程に、酷いにも程がある。
ただアレックスが淹れてくれるお茶だけが、唯一、美味しく頂けるお茶だった。


「キミのお茶は安心するよ。本当に美味しい。」


そう伝えると、彼女はにこやかな笑みを見せ、嬉しそうに小さく頷いた後、優雅に頭を下げると、その場から下がっていった。
必要以上に近付くことのない距離。
多分、女官としての立場を弁えての事だろう。
そこで馴れ馴れしく話し掛けてきたりはしない彼女の態度は、何処までも上品で優雅で。
私には、それがとても好ましく思えるのだが……。


「相変わらず可愛気がないな。いくら優秀だといっても、冷たいと言うか、冷静過ぎて取っ付き難い。」


背後から聞こえてきた同僚達の声。
それは、私以外の黄金聖闘士達が感じているアレックスの印象に他ならない。
ヒソヒソと囁かれる声を何処か遠くに聞きながら、ぼんやりと紅茶のカップを口に運ぶ。


完璧なまでの美しさというのは、敬遠されがちなのだろう。
私には全くもって理解出来ないが。





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