風に揺れる薔薇のような
秘密の花園に咲く私だけの美しい人



Secret Garden



あの日、私は心を鷲掴みにされた。
自分の感情を表に決して出さない彼女の頬に、一筋。
真珠のような涙が伝った瞬間に――。



***



彼女――、アレックスとは、もう何年の付き合いになるだろうか。
彼女は幼い少女の頃より女官として、この聖域で働いていた。
幼少時は主に祭祀の手伝いなどの童女が行う仕事を行い、アテナ神殿の巫女見習いのような立場だった。
それが、いつの頃だったか、その優秀な能力を買われて、複雑な仕事の多い教皇宮の女官に抜擢された。
確か、十五か十六か、そのくらいの年齢だった筈。


そして現在、二十一歳となったアレックスは、その若さで教皇宮に勤める女官達を総括する立場、つまりは女官長となり、大先輩とも言える年配の女官達からも一目置かれる存在だ。
聖域一優秀な女性と言っても過言ではない、兎に角、隙のない洗練された物腰と、理解力と回転の素晴らしく速い頭脳、更には、非の打ち所がない見事なスタイルと美貌。
そう、アレックスは『完璧な美女』と呼ぶに相応しかった。


「あぁ、この資料は先程、何処かで見かけた気が……。それと、このバラバラの数字、合計は出していないのか?」
「サガ様、資料はこちらに御座います。あと、そちらの合計も、ここに出しておきました。」


実にさり気無く、必要としているところに必要な分だけの手を貸して、決して自分を誇示したり主張したりはしない。
仕事に追われ続けているサガなどは、誰にフォローして貰ったのかさえ気が付いてない有様。
空気のように皆の様子を伺い、絶妙なタイミングで助け舟を出す。
それがアレックスが、どの女官よりも優秀で頼りになる所以だ。


絶妙なタイミングで助け舟を出すには、それなりの知識と知性が必要。
何を言われても、何を求められても、即座に反応し対応する事の出来る、そのスキルの高さは尊敬に値すると、私は常々思っている。
まぁ、ボンクラ揃いの黄金聖闘士達の中では、彼女のそのさり気ないフォローにすら気付いてない者も多くいるのだから、呆れるばかりだ。


それどころか、アレックスの完璧な美貌と冷静な対応に、『近寄り難い』『話し辛い』『愛想が無い』などと好き放題、言ってのける輩もいるのだから、実に情けない。
自分がどれ程、彼女にフォローして貰っているかも知らないで。


確かに、同じ女官達や文官の男達からは、強い憧れの対象となっていて、近寄り難い雰囲気ではあるのだけれど。
我々黄金聖闘士全員の性格から好みまで完璧に把握し、それぞれに居心地の良いスタンスで接する技量を身に着けている、そんな彼女を、私達が『近寄り難い』などと言うのは間違っているとしか思えない。
きっと、その完璧過ぎる美しさと優雅な身のこなしのせいだろう、そのように思われるのは。
柔らかな女官服のスカートをフワリと翻し、執務室の中を横切っていくアレックスの横顔を眺めながら、感情を表に出さずに淡々と仕事をこなしていく彼女の姿は、何処かカミュのクールさと似通っているなと、私は何となく思った。





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