ミロ様に再び出くわしたのは、それから数日後の事。
宝瓶宮を出て、少し下ったところだった。
今日は流石に猫ちゃんの姿は何処にもないが、ただミロ様の服が……。


「毛だらけ、ですね。」
「ん? あぁ、カミュのトコの猫が、やたらと擦り寄ってくるんだよ。」


そう言って、ミロ様は肩や腕に付いた毛をパッパッと払う。
私は彼の背後に回り、手の届かない場所の毛を払ってはみたものの、正直、払うだけ無駄な気がしていた。


「何で?」
「どうせ、また磨羯宮で猫まみれになるでしょう? で、毛だらけになる、と。」
「猫まみれって……。」


ヤツ等に見つからないよう、コソッと抜ければ問題ない。
彼は言い張ったけれど、そう上手くいくとは、とても思えない。
だって、あの宮は冥界でも有名な猫御殿。
宮に足を踏み入れる前から、そこかしこに猫ちゃんがワラワラと群がっているのだから。


「ミャーン!」
「ミャ、ミャ!」
「寄るな! 寄るなよ、お前等!」


言っている傍から、日溜まりでゴロゴロとしていた猫ちゃん達に見つかり、取り囲まれてしまう。
それを邪魔だと言って、蹴散らすミロ様。
何というか……、これを毎度、磨羯宮を通り抜ける度に繰り返しているのかと思うと、呆れると共に、ミロ様に対して同情すら覚え始める私。
急いでいる事もあるだろうに、猫ちゃんを怪我させないように退かせるのは大変だろう。


「あ、この子……。」
「んー? あぁ、こないだの猫か。」


ヒョイと抱き上げれば、早速の頬擦りスリスリ攻撃が始まる。
そして、ミロ様の服は再びの毛だらけに。


「アレックス、磨羯宮に帰したんだな。」
「当然です。飼えませんから。」
「飼えばイイじゃん。」
「飼いませんよ。ミロ様こそ、これだけ好かれているのですから、一匹くらい飼ったらどうですか?」
「俺は駄目。自分自身の面倒もロクに見られないんだから、猫の世話なんて出来ないって。」


肩によじ登ってくる猫ちゃんを手で捕らえ、私の腕の中へと押し込むミロ様。
足下から上ってこようとする他の猫達を爪先で払い、私の腕の中の猫ちゃんの頭を撫でる。
私は、そんな彼の顔をポカンと見上げるだけ。


「じゃあさ、アレックス。この猫、俺が飼ったら、世話しに来てくれるか? 猫だけとは言わず、俺の世話もだけど。」
「……はい?」
「寧ろ、猫より俺の世話メインでさ。あ、いっそ住み込みの宮付き女官になって、一日中、俺だけのために天蠍宮で過ごすっていうのは、どう?」


これって、ただの女官としてのお誘い?
それとも……。


――バタンッ!


「おい、ミロ。女を口説くなとは言わん。だが、俺の宮で、しかも、猫をダシに口説くのは止めろ。」
「やべっ。見つかった。」
「あ、シュラ様……。」


結局、私達は最上級に不機嫌なシュラ様によって、磨羯宮から追い出されてしまった。
人馬宮を見下ろす階段上で、唖然と顔を見合わせるミロ様と私。
私の腕の中には、未だ先程の猫ちゃんが抱かれたままだ。


「えっと、アレックス、その、さ……。」
「はい、何でしょう?」


一度、遠くに目を泳がせて、それから重たげな髪をガシガシと掻き毟って。
そして、少し照れ臭そうに表情を隠しながら、ミロ様はチラチラと私に視線を向ける。


「この猫の世話しに来てくれるか? いや、猫というより、俺の世話を……。駄目?」
「駄目……、じゃない、です。」


頬を赤らめて見つめ合う私達は、まるで初々しい少年少女のようだ。
そんな私達をからかうように、腕の中の猫ちゃんが、ミャーンと鳴いた。



と暮らす日々
猫より可愛い貴方



(お前、猫の姿をしたキューピッドだったんだな。)
(ミロ様、それは猫ちゃんですから、間違いなく。)



‐end‐





ミロたんに苦戦しました(苦笑)
結果、人の宮で女官を口説き、山羊さまに怒られるという形になりました。
そんなミロたんも、ミロたんらしくて可愛いかと思いましたw

2015.05.24



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