と一緒



まだ初夏ですらない時期だというのに、頭上から降り注ぐ日光は、暴力的なまでに強かった。
高い気温の下、十二宮の階段を下る昼下がり。
まだ上りではないだけマシだと言い聞かせながら、額の汗を拭う。


「あっついなぁ、アレックス。汗だくだ。」
「あ、ミロさ――、っ?!」


背後から響いてきた声は、その時、丁度、差し掛かっていた天蠍宮の主のもの。
だが、振り返った私の目は、彼の頭と肩に乗っていた『モノ』に釘付けになっていた。
この暑さの中、元より暑さの厳しそうな彼の重く長い髪の上に、更に暑さを増すばかりの『姿』があったのだから。


「ど、どうしたのですか、それ?」
「どうしたもこうしたも、いつもなんだよなぁ、俺。磨羯宮を抜けると、必ず一匹、二匹はついてくるんだ。」
「必ず、ですか……。」


ミロ様の頭の上に一匹。
そして、首に巻き付くように肩の上に一匹。
モコモコとした長毛の猫ちゃんが乗っていたのだから、私の目が真ん丸になってしまうのも仕方ない。
首から上だけ見れば、まるで冬支度だ。


「シュラ程じゃないけど、俺も猫に好かれてるみたいでさ。」
「それで、そのまま連れてきちゃったんですか?」
「連れてきたって言うか、くっ付いて離れないんだよ。」


確かに、磨羯宮でお見掛けするシュラ様は、常に頭や肩、腕などに、数匹の猫ちゃんが乗っている異常な状態だ。
それは今のミロ様の比ではない。
でも、ココは既に天蠍宮だし、猫御殿とも言われる磨羯宮ではないのに、そんな状態だとは。


「何だか、猫マフラーと猫帽子みたいな状態になっていますけれど……。」
「暑い日は勘弁して欲しいんだけどなぁ。コイツ等には気温なんて関係ないみたいでさ。最近じゃ、カミュのトコの猫まで、ゴロゴロと擦り寄ってくる。」
「ミロ様から、マタタビの匂いでもする、とか?」
「何だよ、それ。俺、マタタビなんて触った事もないし。」


ワザとらしくプウッと頬を膨らませる間にも、首に巻き付いていた猫ちゃんが、スリスリと彼に頬擦りをする。
頭の上の猫ちゃんは、目を細めてミロ様の髪に埋もれ、すっかり陶酔し切っている様子。
本人は不本意のようだけれど、本当にマタタビの匂いでも染み着いているんじゃないだろうか。
そう思える程、この猫ちゃん達はミロ様にゾッコン(死語)だった。


「俺としては、猫に好かれるよりも、可愛い女の子に好かれたいんだけどな。」
「だったら、猫ちゃんと仲良くしておくのも悪くないと思いますけど。」
「ん、どういう事だ、アレックス?」


女官達の中には、猫好きな子も多い。
となれば、自宮に猫が居れば、話題にも困らないだろう。
何より、そこに猫が居るなら、女官達の方からも、ミロ様に近寄り易くなる。
普段は恐れ多くて近付き難い黄金聖闘士様なだけに、猫の存在は絶好のクッションアイテムになるに違いない。


「成る程ね。で、お前はどうなんだ、アレックス? 猫は好き?」
「私ですか? 嫌いじゃないですね。どちらかと言うと好きな方です。」
「そ。じゃ、コレ。はい。」
「え……?」


ヒョイと頭の上に乗っていた猫ちゃんを持ち上げ、私の腕の中に押し込んだミロ様。
そのままニイッと笑って、私の頭をポンポンと叩くように撫でた彼に、私は意味が分からず、ただ首を傾げた。





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