と一緒



――ミギャー!!


お掃除の途中、耳に飛び込んできたのは悲鳴のような、絶叫のような、とても奇妙な声だった。
けたたましく泣き喚く赤ちゃんの泣き声のようでもあり、だけど、もう少し獣じみているようでもあり。
何だか良く分からないけれど、取り敢えずは確認をと思い、急いで声(?)の聞こえてきた方へと向かった。


――バンッ!


「……あ。」
「あ、とは何だい、アレックス? あ、とは。」
「ミギャッ!」


プライベートルームの扉を開けると、その直ぐ目の前。
アフロディーテ様が、盛大に不機嫌な表情をして立っていた。
しかも、手には大暴れする猫ちゃんを摘んで。
首根っこを掴まれた真っ白な猫ちゃんは、身体を捻り、もがき動いて、何とか逃れようと試みているが、流石に相手は黄金聖闘士。
何をどうしたってビクともしない。


「どうしたのですか、その猫ちゃん?」
「どうしたも何もないよ。私の薔薇園に入り込んだところを、引っ捕まえただけだ。」
「ミギャー!」
「大方、シュラの宮から上ってきたのだろう。ウロウロするのは構わないが、危なく毒薔薇の群生する一角に入り込みそうになっていたんだ。」
「では、保護されたのですね。アフロディーテ様はお優しいです。」


不機嫌さはそのままに、片眉を上げるアフロディーテ様。
端正な顔が歪み崩れていても全く気にしないところは、見た目に寄らず男前な人。


「優しい? 私の何処が?」
「猫ちゃんが毒にやられてしまわないよう、保護されたのでしょう?」
「違うよ。私の薔薇園に猫の死骸などあっては不快だから、そうならないようにしたまでだ。」
「ミギャ、ミギャッ!」


ツンと顔を逸らす仕草は天邪鬼で、プライドが高いのは薔薇そのもの。
そんな彼とは話し辛い、接し難いという女官達も沢山もいるけれど。
ある意味、分かり易くて可愛い人だと、私は思う。


「さ、猫ちゃんをコチラへ。」
「駄目だよ、アレックス。女官服が汚れる。庭に寝そべっていたから、土塗れなんだ。」
「構いません。直ぐにお風呂で綺麗にすれば大丈夫です。」
「風呂に? こんな汚い猫を甘やかして、どうする気だい、アレックス?」
「泥を洗い流せば、きっと美人になりますよ、この子。」


信用出来ないといった表情で、眉を潜めるアフロディーテ様。
確かに、折角の白い毛は泥に塗れて、酷くみずぼらしく見えるけれど。
長くふわふわな体毛と、澄んだ青い目は、聖域一の美貌を誇るアフロディーテ様の横に侍っていても、何ら遜色がないと思うの。
綺麗に洗って、綺麗にブラッシングさえしてあげれば。


「言っておくけど、私は猫を侍らせたりなんかしない。すっかり猫に憑りつかれている山羊や蟹と一緒にしないでもらいたいものだな。」
「はいはい、分かりました。」
「何だい、アレックス。そのヤレヤレ的な返事は?」
「ミャ、ミャッ。」
「お前も何故、そんなに態度を豹変させるんだ?」
「ミミャッ!」


私の手に移った事で、甘えた鳴き声を上げていた猫ちゃんの狭い額に、ピンと一発。
不機嫌に唇を尖らせて、デコピンを食らわす。
再び暴れ出す猫ちゃんと不毛な睨み合いを続けるアフロディーテ様の姿を見て、私は苦笑いを零すばかりだった。





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