「その子は、スマ子です。」
「スマっ……。アレックス、オマエ。マジでセンスねぇなぁ。」
「でも、そんなセンスのない女に一任したのは、デスマスク様ですからね。」


ヘイヘイと呆れた声を出し、片眉を上げて溜息。
でも、その手は膝の縞猫ちゃん、もといスマ子の頭をグリグリと撫で回している。
されるが儘に目を細めている、その心地良さげな表情。
何とも幸せそうだ。


「ンじゃ、アッチの雄共は?」
「勿論、もう決まっています。」


デスマスク様が顎でしゃくって見せた方向は、隣のリビング。
食事を終えた雄猫ちゃん二匹は、キャットタワーを上り下りして遊んでいる。
我が宮の猫ちゃんは、雌は甘えん坊で優雅にノンビリ、雄はマイペースだけど元気で活発。
個性がシッカリと出ている彼等の行動は、見ていて面白いし、兎に角、可愛い。


「灰色の猫ちゃんは中村蟹之介、もう一匹が尾上蟹五郎です。」
「歌舞伎俳優かよっ!」


その瞬間、デスマスク様の突っ込みの勢いに驚いて、膝の上のスマ子は逃げるように飛び降りてしまった。
私が抱っこしていたマス代は、目を大きく見開いて、きょとんと彼を眺めている。


「しかも、蟹ってナンだよ。バカにしてンのか、アレックス?」
「滅相もない。立派な御主人様を尊敬しているからこその名前です。」
「嘘臭ぇ……。」


力なく立ち上がり、ダイニングを出ていったデスマスク様を見て、抱っこしていたマス代を離すと、私はコーヒーを持って、後を追った。
リビングでは、深々とソファーに座り込んだ彼を取り巻き、猫ちゃん達がワラワラと集まっていた。
キャットタワーで遊んでいた筈の雄猫二匹も、ソファーの背もたれを渡り、その広い肩へと擦り寄っている。
隣にはシッカリとマス代が陣取り、大きく開いた足の間にチョコンと居座るのはスマ子だ。


「ンだよ、アレックス? なンか言いたそうだな。」
「いえ……、まるで猫の国の王様だなぁと。誰が見ても、猫ハーレムです。」
「ハーレムねぇ……。ま、一匹、デカいのが混じってるけどな。」
「……は?」


チョイチョイと手招きする仕草に呼ばれ、不用意に近付いたのがいけなかった。
目にも止まらぬ早さで手首を捕まれたかと思ったら、そのままグイッと引っ張られる。
油断していただけに、全く反応出来ないまま、私はデスマスク様の膝の上に座らされていた。
しかも、ニヤリと、これ見よがしに笑む彼と、至近距離で向かい合った状態で。


「な……、なな……。」
「一番デカいのが、一番の跳ねっ返りだがなぁ。まぁ、それも刺激的で悪かないが。」
「な、なな、何をしているのですか、貴方は?!」
「何って、俺の可愛い猫チャンと、より親交を深めるためのスキンシップを取ってンじゃねぇか。分かンねぇのか?」
「分かりませんっ!」


必死に振り解こうとしたが、両手首を捕らえた手を離す気は微塵もないらしい。
ニヤリ笑顔は益々深まり、目なんて楽しそうに弧を描いている。
にやにやにやにや。
私がもがけばもがく程、この人は楽しくて仕方ない様子。
一度は彼の膝から飛び退いたスマ子が、私達の間に、そろそろと割り入ってきて、ミャーンと鳴き声を上げた。
必死の攻防を続ける私達が、じゃれ合っているようにでも見えたのかもしれない。


「は、離してください!」
「やなこった。」
「もうっ! 怒りますよ!」
「怒れよ、好きなだけ。」


キラリと輝く紅い瞳、フワリと揺れる銀の髪、ニヤリと歪んだ口角。
悪戯好きな彼自身が、私なんかよりも、ずっと猫ちゃんみたいだと思った。



と暮らす日々
毎日が猫ハーレム



(もうっ! 執務に遅れちゃいますよ!)
(ンなモン、多少、遅れたくれぇじゃ、なンて事ねぇよ。)



‐end‐





スミマセン、猫に蟹さま関連の名前を付けたかっただけです。
この先、夢主さんが「蟹之介〜!」と呼ぶ度に、蟹さまがピリピリしていれば良いと思いました^^
アホでスミマセン;

2014.06.29



- 14/37 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -