「もう直ぐ朝御飯が出来上がりますから、シャワーを浴びるなら早くしてくださいね。」
「おー……。」


くるり、言われるがまま背を向けたデスマスク様は、だが、両手にシッカリと猫ちゃん達を抱き上げたままだ。
まさか、朝から一緒にシャワーを浴びる気ですか?
いや、でも、猫は水嫌いだって良く聞くし……。


「あの……、まさか猫ちゃん達までシャワー室に連れていくおつもりですか?」
「あー……。」


再び、しなだれた銀の髪を掻き毟り、ワンテンポ遅れて、パッと腕を広げる。
途端に、空中で解放された猫ちゃん達。
私はハッと息を飲んだが、流石は雌であっても猫は猫。
俊敏な身のこなしで身体を回転させて、見事、軽々と床に着地した。
そして、間髪入れずに、もう一度、抱っこしてくれと強請るように、デスマスク様の足へと勢い良くジャンプを開始する。


わーわー、止めて、止めて。
そんなに激しく飛び付いたら、うっかり爪が引っ掛かって、バスタオルが腰から落ちてしまうかもしれない。
そんな猫ちゃん達を、足で軽く振り払い、デスマスク様はシャワー室へと消えていった。
本当に、何処までもマイペースな人なのだから。


それにしても、この猫ちゃん達に、いつまでも名前がないというのは不便だわ。
デスマスク様にしてみれば、「オイ」とか、「オマエ」とか、「ソコのヤツ」とか、「アレ」とか、適当な呼び名で十分なのだろうけれど、流石に私はそうはいかない。
あの白い雌猫ちゃんなどと、いちいち説明付きで、どの猫ちゃんを指しているのか示さなければならない、この面倒さ。
私はダイニングにスクランブルエッグを盛り付けたお皿を運びつつ、足下に纏わり付く猫ちゃんを見下ろして、溜息を吐く。
そろそろデスマスク様へ、正式に彼等の名前を提案しなければ。


「ンだよ、アレックス。人の顔、ジロジロ見て。」
「名前の事です。そろそろどうかと思いまして。」
「名前? 誰の?」
「猫ちゃん達のです。」
「あー……。」


予想に漏れず、面倒臭いとか、アレとかソレとかで問題ないとか、愚痴愚痴と言い出すデスマスク様。
だが、今日という今日は、決して引き下がらないと決心しているのだ。


「デスマスク様は、オイでも、ソレでも、ソイツでも、好きにお呼びください。でも、彼等に名前がないと、私が辛いんです、大変なんです。」
「大変ねぇ……。」


暫く逡巡した様子を見せた後、だったら好きにしろと、丸投げしてきた。
良し、これで文句は言わせないわ。


「じゃあ、私が彼等の名前を決めますね。」
「おう。イイ名前付けろよ。」


好きにしろとか言っておいて、いざとなると良い名前にしろとか、矛盾していますけど、思いっ切り。
まぁ、良いわ。
決定権があるのは私、文句など言ったところで、絶対に受け付けません。


丁度、彼等も食事を終えて、テーブルの下へとワラワラ集まってきた猫ちゃん達の一匹を抱き上げた。
いつもデスマスク様の横をキープしている、甘えん坊の真っ白な雌猫ちゃん。


「この子の名前は、マス代です。」
「マスっ……? なンだよ、その変な名前は?」
「デスマスク様の一番の愛猫ですからね。お名前の一部を頂きました。」
「頂かなくてイイよ、ンなモン。つか、じゃあ、コイツは?」


タイミング良くヒョイと彼の膝に飛び乗ってきたのは、黒い縞柄のスラッとした美しい猫ちゃん。
ちなみに、この子も雌の猫ちゃんだ。





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