と一緒



私の朝は忙しい。
毎日が戦場だ。


住み込みで働かせてもらっている巨蟹宮、その主は、それはそれは細かくて口煩い。
そんな彼に文句を吐かれぬよう、手抜きなく完璧にこなさなければならない家事仕事。
兎に角、慌ただしい朝の時間。


だが、リビングへと入ると、そんな忙しい私を待ち構えたように飛び付いてくる、フワフワ猫ちゃん達。
正直、この忙しさを思えば邪魔で仕方ないのだが、憎めない可愛さで足下に纏わり付かれては、無碍にも出来ない。
私は一頻り彼等の頭や喉、身体を撫で回してから、仕事を始めた。
今日は雄の猫ちゃんが二匹だけ。
残りの二匹、雌猫ちゃん達は、何処か別の場所にいるのだろうか。


まぁ、良いわ。
急いで朝御飯の用意をしなきゃいけないのだもの、猫がどうのと言っていられない。
二匹の雄猫ちゃん達が、リビングの片隅に作られたキャットタワーにワラワラと上り始めたのを見て、私はキッチンへと向かった。



***



「デスマスク様、朝ですよ! 起きてください!」
「んぁ……。まだ……、寝かせとけ、って……。」
「駄目です、執務に遅刻しますよ――、あっ!」


ダンダンダン! と強いノックの後に、遠慮なしに宮主の寝室に突入した。
ドアの外から声を掛けるだけなんて、そんな生温い起こし方では、絶対にベッドから出てこない事を知っているからだ。


そして、その判断は正解だった。
部屋の中では、未だ上掛けに包まってムニャムニャと寝言を言い続けるデスマスク様と、そんな彼の顔や身体に擦り寄る猫ちゃん二匹。
雌猫ちゃん達の姿が見えないと思ったら、デスマスク様と仲良く一つベッドの上でしたか……。


「ンだよ……。朝っぱらから、エッチをせがまれたって……、無理だ……、って。」
「ミャーン。」
「だから、無理……。擽ってぇよ……。」
「ミャ?」
「何をやっているんですか、全く。」


スリスリと擦り寄ってくる猫ちゃんと、朝から新婚さんの朝の一幕、その真似事の真っ最中。
しかも、奥さんの方が積極的なんて、どんな妄想寝言ですか。
呆れて見ている間に、二匹の内の一匹、黒縞模様の猫ちゃんが、上掛けの中に潜り込んだ。
モゾモゾゴソゴソという音の後に、デスマスク様が大きく身を捩る。


「ンな事、したって……、無理は、無理だって……。」
「ミャー。」
「もうっ! イイ加減に起きてくだ――、ギャッ!!」


痺れを切らして、クロワッサンのように巻き付いていた上掛けを引き剥がした私。
だが、それは最大の誤り、最悪・最低の選択だった。
上掛けを剥がされたデスマスク様は、下着すらも身に着けていない状態、つまりは全裸で就寝していたのだ。
悲鳴を上げると同時に、上掛けを投げ付けて、慌てて背を向ける。
そんな真っ裸の身体に、フワフワな猫ちゃんが擦り寄れば、そりゃあ擽ったいに決まっているわ。


「な、な、何で、裸で寝ているんですか?!」
「何でって、オマエ。眠かったンだよ。着替えンの面倒だったから、脱いで、そのまま寝ちまった。」
「そのまま寝てしまわないでください……。兎に角、早く何かを。ほら、早く。」
「あー……。」


ボリボリと髪を掻き毟る音に続き、何やらゴソゴソと動く音が聞こえて、恐る恐る振り返る。
デスマスク様は既にベッドから降りていて、寝室の中だというのに咥え煙草で、腰にはバスタオル。
そして、両手にシッカリ猫ちゃん二匹を抱きかかえていた。
彼の立派な大胸筋に、猫ちゃん達は嬉しそうに目を細めて擦り寄っている。





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