と一緒



「……あ? なぁにジロジロ見てンだよ、アレックス?」
「いえ、そう言われましても、見ちゃうでしょう、普通。」


ジロリ、いつもの怖〜い視線で睨み上げられたが、正直、その姿ではサッパリ恐怖も威圧感も感じられなかった。
日当たりの良い窓辺まで、わざわざ移動したと思われるラグマットの上にゴロリと寝そべり、雑誌を捲るデスマスク様の姿は、まぁ、いつも通りと言えば、いつも通りなのだけれど。
ただ、いつもと明らかに違うのは、普段は日当たりの良い場所など絶対に選ばないという事と、彼の周りを四匹もの猫ちゃんが取り巻いている事。


「どうしたのですか? その猫ちゃん達。」
「どうしたって、コイツ等が俺に勝手に付いてきやがっただけだ。」
「だからって、そんな風に自分の飼い猫の如く可愛がるんですか?」
「別に可愛がっちゃいねぇだろ。勝手に好きなようにさせてるだけだっての。」


とか何とか言いつつ、その手は、目の前で彼と同じようにゴロンと長くなって寝ている猫ちゃんの頭をグリグリと撫で回している。
その手は無意識ですか、無意識?
何処がどう勝手にさせているだけなのか、事細かに教えて欲しいくらいです。


「では、どうして、そんなに日当たりの良いところに居るのです?」
「あったけぇトコロで寝たかったンだよ、気分的に。」
「嫌なら追い出す事も簡単に出来るでしょうに。」
「俺に惚れて付いてきたンだ。追い出すなンざ冷酷過ぎンだろが。」


私はデスマスク様の長い足にじゃれ付く灰色の猫ちゃんをヒョイと抱き上げた。
そして、確認。
うん、間違いない。
どう見ても間違いはない。


「この子、雄ですけど?」
「煩ぇな、アレックス。超絶イケメンな俺様は、雄猫も惚れるくれぇの魅力に溢れてンだよ。若しくはアレだ。」
「アレ?」
「俺の身体から垂れ流されてるフェロモンのせいだな。雄も雌も関係なく、虜になっちまうってヤツ。」


減らず口も、ここまで来ると呆れ返るばかりです。
自分で言っていて馬鹿らしくならないのですか?
虚しくならないのですか?
今、貴方の身体にゴロゴロと擦り寄っているのは、金髪碧眼の妖艶な美女ではなく、黒の縞柄をしたスマートな猫ちゃんなんですよ?


「ご自慢のフェロモンで猫ちゃんを釣る前に、素敵な女性でも釣ったらどうです? 折角のお休みの日に、猫ちゃんを侍らせてゴロゴロしている場合ではないでしょう。」
「アホか。人間の女なんざ、俺がその気になりゃ百人でも二百人でも軽く釣れるっての。毎晩、相手にしてたら、俺の身体が持たねぇよ。」
「そんな女性など、デスマスク様のご立派なその身体だけが目当てですよ、どうせ。つまりは美女を釣っているのじゃなくて、美女に釣られているのです、貴方が。」
「ぁあ?! 俺に喧嘩売ってンのか、アレックス?」
「ミャ〜ン。」


売り言葉に買い言葉、一発触発のピリピリした空気を、あっさりと取り除いたのは、猫ちゃんのノンビリした鳴き声だった。
そして、それまでベロンと伸びてグースカと寝ていた真っ白な猫ちゃんの、クワワッと暢気に零れた欠伸の音。
一瞬、ポカンと動きを止めた私だったが、同じくポカンと口を開けたデスマスク様と目が合った刹那、その顔の間抜けさに、ついつい堪え切れずにクスクス笑い出してしまった。





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