その日から、私達の生活に可愛い猫ちゃんが加わった。
活発で好奇心旺盛な性格なのか、宮内のアチコチを駆け回って良く遊び、ニャオンニャオンと元気に鳴き声を上げている。
だけど、とても賢い子でもあり、一度でもムウ様に叱られた事は二度としないし、駄目だと言われたところには絶対に近付かない。
そんな愛らしい猫ちゃんの姿は、聖衣の修復作業に追われるムウ様の癒しにもなっていた。


ある日の事――。


「……あれ?」
「どうしたのです、アレックス?」
「居ないんです、何処にも。」


いつも元気いっぱい駆け回っているリビングに、今朝は猫ちゃんの姿がない。
鳴き声も聞こえない。
他の部屋にいるのかと探し回ったが、その姿は見えない。
猫ちゃんの好きそうな狭い場所や高い場所、入り込みそうな空き袋や紙袋、箱や籠の中にもいない。


「まさか……、家出?」
「元々が野良猫だったのですから、家出というのは違うでしょう。この宮に飽きて、出ていっただけかもしれませんよ。」


昨日まで、あんなに楽しく私達と過ごしていたのに、飽きて出ていっちゃうなんて……。
シュンとして項垂れていると、ムウ様が優しく頭を撫でてくれた。


「もしかしたら作業部屋に居るかもしれません。そこを探してみない事には、出ていったとは言い切れないでしょう。」
「は、はい……。」


猫ちゃんが作業部屋に勝手に入っていく事は殆どない。
ムウ様がそこにいる間しか、入っては駄目だと認識しているようで、だからこそ、そこに居る確率は限りなく低いと思った。
その予想通り、作業部屋をグルリと見回しても、猫ちゃんの姿は見当たらなかった。


だけど……。


「あぁ、ほら。アレックス、コッチへ……。」
「あ……。」


シーッと指を唇に当てて私を手招きするムウ様に呼ばれ、部屋の隅へと駆け寄る。
修理中の聖衣のパンドラ箱が幾つか並んでいる、その箱と箱との狭い隙間。
何かが入り込めるとは思えない、とても細い隙間を指さして、ムウ様はクックッと笑いを堪えている。


「見てください、これ。ククッ……。」
「わっ。え、ええっ? 何でこんなトコロに?」
「まさにギッシリというところですね。」


ギッシリというか、ミッシリというか。
まるで箱と箱にプレスされたような状態で、挟まり込んでいる猫ちゃん。
見事に潰れた顔の真ん中、キラリと光る目が、こちらを見上げている。


「入ったは良いけれど、出られなくなっちゃったのでしょうか?」
「違うと思いますよ。出られなくて辛いなら、鳴き声を上げるでしょう。そうしないという事は、存外、ココが気に入っているのでしょう。」
「こ、こんな狭い場所が?」
「猫ですからね、そんなものですよ。」


そう言っている間に、猫ちゃんはグイグイと自力で這い出してくる。
スポンという音でも聞こえてきそうな程に勢い良く飛び出してきた猫ちゃんは、それと同時に、「ミャオン。」と甘えた鳴き声を上げて、私に飛び付いてきた。


「全く、この子は面白い猫ですね。クククッ。」
「本当ですね、和みます。ふふっ。」


毎日が慌ただしくて忙しく、余裕のない日々が続いていた、この宮ですが。
この子が来てからというもの、笑いが絶えなくなりました。



と暮らす日々
穏やかで楽しい日常を



(その内、パンドラ箱の中に潜り込みそうですね、この子。)
(まさか猫座の聖衣っ?)
(アレックス、猫座なんて有りませんよ。でも、獅子座辺りなら……。)
(ミャオン?)



‐end‐





猫と暮らすシリーズ第5弾、ムウ様編。
遂に冥界はネタが尽きてしまったので、聖域に進出しました。
ムウ様は優しい方ですが、意外にも拾い猫や犬などを保護するとか、そういう行為には厳しいんじゃないかなって思ったり。
実は小動物には慣れてない、とか(苦笑)

2014.04.13



- 9/37 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -