と一緒



上官に呼び付けられる事は多々ある。
それを厭う事はない。
それだけ頼りにされている、信頼されているという事だからだ。
自分が指名されて呼ばれたのなら、喜んでそこに向かい、与えられた仕事を全うする。
だが、今日だけは何かが、何処か様子が違っていた。


違和感を覚えたのは、呼ばれた場所。
執務室でもなく、各地獄の何処かでもなく、パンドラ様の御前でもない。
そこは彼の住まう館、プライベートな場所だったからだ。
これまで所用で伺う事はあっても、このように個人的な用向きで呼ばれた事は、ただの一度もなかった。
一体、何があるというのだろう。
首を傾げずにはいられない。


「お呼びでしょうか、ラダマンティス様。」
「バレンタインか。入れ。」
「はっ。失礼しま……、っ?!」


許しを得て部屋に入ると、真っ先に目に飛び込んだのは、尊敬する上官の姿だった。
だが、仕事で自分の前にいる時とは大きく違っている。
ラフな服装のラダマンティス様は、寛いだ様子でソファーに腰を掛けていた。
その服装だけでも物珍しいというのに、彼の膝の上では、小さな猫が二匹、ゴロゴロと戯れているではないか。
膝の上で好き勝手にじゃれ合っている猫を叱りもせず、それどころか、幸せそうに目を細めて眺めている様子は、仕事中の厳しい表情とは打って変わって、とても優しい。
こんなラダマンティス様の顔を見るのは初めての事で、私は開いた口が塞がらないままに、その場に立ち尽くしてしまった。


「ミャンッ!」
「む……、そうか。」
「っ?!」


呆然としている間に、戯れていた猫の内の一匹が、私の存在に気付き、コチラへと駆け寄ってきた。
金色のフワフワした毛をした可愛らしい猫だ。
それが私の足首に纏わり付くように、顔をスリスリと擦り付けてくる。


「あの……、ラダマンティス様。これは、どういう事でしょうか?」
「どうもこうもない。そいつがお前に惚れているらしいと聞いて、確認のために呼んだまでだ。」
「……は?」


ラダマンティス様は膝の上に居残った茶色い猫を抱え上げると、それを抱いたまま、唖然とする私の足下にしゃがみ込んだ。
目を細めて私の足に擦り寄る猫に手を伸ばし、何とか気を惹こうとする。
が、猫はウザったそうに、その手を退けると、また私の足にじゃれ付き始めたではないか。
これは、まさか本当に……?


「一度、仕事場にコイツ等を連れて行った事があっただろう。その時に、お前に惚れ込んでしまったようでな。」
「……猫が、ですか?」
「そうだ。」


キッパリと言い切るラダマンティス様に、開いたままの口が、更に大きく開いていく。
これが尊敬する上官でなければ、「何を馬鹿な事を言っているのだ!」と一喝するところ。
だがしかし、そんな事など当たり前に出来なくて、どうして良いのやら戸惑うばかりだ。


「ほら、だから言った通りでしょう?」
「フン。お前の事だ、アレックス。どうせコイツに会いたいがための口実だと思っていたが、まさか本当だったとはな。」
「確かに、会いたかったのは、私も同じだけど。」


ふわり、柔らかな空気を纏って現れた彼女は、ラダマンティス様の妹だ。
いつも厳しい顔をしているラダマンティス様とは対照的に、アレックスはいつ見ても、にこやかに笑っている。
冥界に咲く一輪の花とは、彼女のような女性をいうのだろう。
可憐で、たおやかで、春風のように暖かい。
運んできたティーセットを、トレーごとテーブルに置くと、アレックスは私の腕を取り、「さあ、どうぞ。」と、ソファーへと誘導した。
その際、足に擦り寄っていた猫も、一緒に移動してきていたが……。





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