「さて、登るか。」
「えっ?! この木に登るの?!」
「あれ? 嫌だった?」
「別に嫌ではないけれど……。」


寧ろ、久し振りに登れる事が嬉しいんだけど。
アシュは心の中でだけ、そう一人ごちる。
だが、何故、父の墓参りの前にココへ来て、更には木の上へ登ろうなんて言い出したのだろう?
アイオロスの意図するところが全く読めず、アシュは困惑した。


「あぁ、そうか。アシュは昔と違って、随分と成長したからね。登るのが怖いのか?」
「そんな事ない、平気よ。今だって、ちゃんと一人で登れるわ。」
「本気か? 自分の身体がどれだけ成長したのか、分かってないんじゃないのか、アシュは。」
「私が太ったと言いたいの? そりゃあ、子供の頃みたいに軽くはないけど、木登りくらい出来るわ。」


その言葉に、アイオロスはチラリとアシュの身体に目をやった。
少女の頃の彼女は、とても細くて、背も小さくて、身軽な子供だった。
だが、今はというと、女性らしく丸みを帯びてふっくらとした身体は、到底、楽に木登りが出来そうには見えない。
それどころか、その身体の中でも特に豊かに実った胸、それは豊満と言って良い大きさで、今も見下ろすアイオロスの目に映っている。


「太ったなんて言ってないよ。女らしくなったって言ってるんだ。大体、その大きな胸じゃ、上手く木にしがみ付けないんじゃないのか?」
「っ?!」


アイオロスの、その一言に、アシュはパッと顔を上気させた。
ほんのり赤く染まった頬のまま、キッとアイオロスを睨み付け、慌ててカーディガンの前を両手で合わせる仕草ときたら。
その可愛さに頬が緩み、ついつい笑みが零れてしまう。


「もう! 何処を見てるのよ、ロスにぃ!」
「仕方ないだろう、アシュのソレは大きいから、嫌でも目に入る。それに……。」


不意に、浮かんでいた笑みを引っ込めて、アイオロスが身を屈める。
そして、両手で自分の胸を抱き、身を竦めたままのアシュの耳元に、唇を寄せた。


「そんな風に隠さなくても、毎晩、ベッドの上で見ているじゃないか。」
「っ?!」


色っぽく囁かれたアイオロスの言葉。
ただでさえ赤かったアシュの顔が、熟れたトマトのように真っ赤に色付く。
胸元や手の甲、肌が見えている部分の全てを真っ赤に染めて、羞恥で絶句するアシュ。
きっと昨夜の濃厚な愛の行為を思い出したのだろう、今にも卒倒してしまいそうな様子をしている。
同じベッドで寝起きするようになった今でも、こうして少女のように初心な反応を見せる彼女を楽しそうに眺めて、アイオロスはクスッと笑った。


「ほら、登るぞ。」


すっかり固まってしまったアシュを、返事も聞かずに抱き上げて、アイオロスは大地を蹴った。
アイオロスの大きな身体は、アシュを腕に抱いていても、まだ軽々と空に舞う。
その身体にしがみ付いて、ギュッと目を閉じたアシュが、次に目を開けたのは、ホンの一瞬後。
その時には、既に高い木の上にいた。





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