全身に鈍い倦怠感を覚えて、アシュは目を覚ました。
本当は、もっと眠っていたい。
今日の眠りは何故だか、とても心地良く、不思議な程、安心して横になっていられた。
だが、心とは裏腹に、無理な睡眠に身体の方が先に悲鳴を上げたらしい。
眠りへと誘う心地良さよりも、首や肩、腰に感じるダルさが勝って、アシュは渋々、目を開いた。


「お、目が覚めたか、アシュ? おはよう。良く寝ていたな。」
「っ?!」
「どうした? そんな驚いた顔をして。」


驚くに決まっている。
目を開いたら、その視界いっぱいに大好きなアイオロスの優しい笑顔が広がっていたのだ。
驚かない筈がない。
そして、あまりに吃驚し過ぎたのか、アシュは何も言い返すことも出来ずに、ただただ口をパクパクと開けたり閉めたりしていた。
その顔が面白くて、それでいて愛らしくて、思わず微笑を深めるアイオロス。


「流石に身体が痛くなってきたろ? 何しろ十五時間も寝てたんだからな。」
「そ、そんなに寝ていたの、私っ?!」
「もう朝の九時になるところだよ。」


見れば、部屋の中は既に日中の明るさに満ちている。
いや、それよりも。
アシュは見回した部屋の見慣れない光景に、再度、驚きを隠せなかった。
磨羯宮でも、そして、人馬宮でもない。
いつもの生活感溢れる部屋とは大違いの、広い部屋、豪華な調度品、そして、大きなベッド。


「あの、ロスにぃ。ココ、は?」
「教皇宮のゲストルームだ。アシュがスッカリ眠ってしまっていたから、サガが気を利かせて貸してくれたんだ。それに、俺も報告書の提出が残っていたし、人馬宮まで戻ってしまうと、出て来れなくなりそうだったから、お言葉に甘えて使わせてもらったってトコだ。」
「ゲストルーム……。」


教皇宮の中に、こんなに立派な部屋があるなんて知らなかった。
どおりで寝心地良い筈だ。
身体をシッカリと受け止めてくれるベッドマットに、ふかふかの寝具。
大きな羽根枕に、寝返りを打っても十分余裕のある広さ。


だけど、それだけじゃない。
眠りの心地良さは高級なベッドのお陰かもしれないが、それ以上に強く感じていた安心感は別のもの。
その安心感は、自分を抱き締めていたアイオロスの身体の温もりから与えられたものだった。
優しく、それでいて強く引き寄せてくる逞しい腕。
全身を包み込んでくれる大きな身体。
何もかもを預けて、眠りの世界へと落ちてしまえる程の安らぎが、そこにはあった。
夢すら見ずに深い眠りの中、うっとりと沈んでいくような甘さに浸っていた。


「ロスにぃ、もしかして、ずっと起きてたとか?」
「いや、俺も泥のように眠ってたよ。何だかんだ言って、流石に相当、疲れてたみたいでな。」


そう言って、ニコリと少年のように屈託ない笑顔を浮かべるアイオロス。
その顔を間近で見つめて、アシュは顔を赤く染めた。
表情は少年のようでありながらも、自分は今、その人の腕に抱かれて、ベッドの上で横になっているのだ。
抑え切れない大人の色気と、不意にみせる少年っぽさと。
それを違和感なく併せ持つアイオロスの魅力が、自分だけに向けて突き付けられているのである。
ただでさえ奥手なアシュが照れるのも、当然といえば当然だった。





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