「あ、だったら……。」
「ん? どうした?」
「いえ、あの、えっと……。」


腕を解いて身体を起き上がらせたアイオロスを見上げ、だが、アシュは直ぐに目を逸らした。
ただでさえ彼の姿は常に眩しいのに、朝の光を背負ってこちらへと笑顔を向けられては、マトモに見つめてなどいられない。
アシュは傍目にも分かる程、赤く頬を染めて、自分も身を起こした。


「何? どうしたんだ、アシュ。」
「あの、えっと……。もし私の方が早く目が覚めていたら、ロスにぃの寝顔が見れたかもしれないなって、そう思ったの。」
「俺の寝顔、見たかったのか?」
「だって、殆ど見た事がないんだもの。」


幼い頃、彼の腕を借りて、良くお昼寝をしていた記憶がある。
アイオリアと二人、アイオロスの両の腕に、それぞれ抱かれて。
それはポカポカと日の当たる窓際での、心地良い時間。
でも、必ずアシュが先に眠ってしまった。
アイオロスの方が年齢がずっと上だという事もあるが、彼の腕の中は、とてもとても居心地良くて、安心感があって。
彼の腕を枕にすると、子供のアシュは数分もしない内に眠りの世界に落ちていた。
アイオロスの腕の中は、アシュにとっては、今も昔も変わらず絶対的な安らぎの場所なのだ。


「そんなの、これからいつだって見られる。何度だって、アシュが見飽きるまで見ていられるようになるんだからな。」
「……え?」


ニッコリと笑顔のままアイオロスが告げた言葉の意味が、全く持って分からない。
アシュは、ただ首を傾げて彼を見返す。
アイオロスは、まるで子供の頃の彼女にしていたように、伸ばした手でアシュの柔らかな髪の毛を何度も梳いた。
その大きな手の長い指先の間からサラサラと零れ落ちる自分の髪の毛が、自分自身のものではないかのように、呆然としたアシュの目に映る。


「これからは、俺と一緒に住むんだから、アシュの好きなだけ見れば良いよ。まぁ、俺もアシュの寝顔をたっぷりと拝ませてもらうけど。」
「……はぁ?」


益々、言っている意味が分からない。
アシュは元々大きな瞳を、更に大きく見開いて、意味の分からぬ言葉を次々と零していくアイオロスの唇を、未知の生物でも見るかの如くマジマジと眺めていた。


「何、呆けた顔してるんだ?」
「何って……、ロスにぃが訳の分からない事を言ってるから……。」
「そんな事はないだろ。俺はおかしな事は何一つ言ってないぞ。」
「だって、好きなだけ見て良いとか、一緒に住むとか……。」
「言葉通りの意味だが。」


アシュは聡明な女性だ。
大抵の事なら、短く掻い摘んで説明すれば、その意図するところを汲んで、何事にも要領良く振舞う事が出来る。
だが、そんな彼女の優秀な頭でも、時に全く回転しなくなる時がある。
そう、恋愛の事に関しては、まるで初心な少女のような反応をみせるのだ。





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