「アシュ。あまり先に行くなよ。見失いそうだ。」
「あ……。ごめんなさい、ロスにぃ。」


端整な顔いっぱいに苦い笑みを浮かべて、ゆっくりと歩いてきたアイオロスが、先に行ってしまったアシュに追い付いた頃、彼女はその腕にしっかりと可愛らしいぬいぐるみを抱き締めていた。


「それは……、山羊か?」
「可愛いでしょ。これ、欲しい。」
「それを抱えて帰ったら、シュラは複雑な顔をするだろうな。」
「するかしら?」
「するさ。あの無表情が、思いっきり渋面になるのは見ものだぞ。」


赤い首輪をした仔山羊のぬいぐるみを目の高さまで持ち上げ、その愛らしい顔をジッと眺めているアシュの横に並んで、アイオロスもその店に飾られていたぬいぐるみの一つを手に取る。
偶然にも、それはライオンのぬいぐるみ。
そのライオンのとぼけた表情は、凛々しく精悍な自分の弟には似ても似つかないのだが、全体的な愛くるしさが、何処となく幼い頃のアイオリアを思い出させて、思わず口元が緩んだ。


「じゃあ、ロスにぃのお部屋に置いておけば……。」
「止めてくれ。それを見た奴等に勘違いされたら困る。」
「なら、そのライオンとセットで置けば……。」
「それも却下だ。」


苦い笑みを更に困りきった笑顔に変えて、アイオロスはアシュの手から仔山羊のぬいぐるみを奪う。
そのまま、ライオンのぬいぐるみと共に、置いてあった元の場所へと戻すと、空いた彼女の手をギュッと強く握り締めた。


途端に、目を見開いて呆然とアイオロスを見上げるアシュ。
何が起こったか分からない、そんな顔をしていた彼女だったが、アイオロスがニコリと微笑んで見せたのと同時に、その顔がパッと赤く染まった。
慌てた様子で何かを言おうと口を開き掛けた後、だが、何も言わずに俯いてしまう。
そんなアシュの様子を間近で見ていたアイオロスは、嬉しそうにクスッと笑うと、繋いでいた手を指と指を絡ませる形へと変え、よりしっかりと彼女の手を包み込んだ。


何だ簡単な事じゃないか。
一度、繋いでしまえば、後は離さなければ良いだけの事。
例え、離さなければいけない事があっても、またこの手を繋ぎ直す事に、もう先程までの躊躇や抵抗は少しもない。


「あ、あの……。ロスにぃ?」
「ん、何だ?」
「あの、手……。恥ずかしいんだけど……。」


先程までアチコチの店を渡り歩いていた元気は、どこへいってしまったのやら。
アイオロスの横で居心地悪そうに身を小さくしているアシュが、俯いたまま小さな声で呟く。
そんな彼女が可愛くて可愛くて、アイオロスは無意識に握る手に更に力を籠めていた。
絡む指と触れ合う手の平が、ヤケに熱く感じる。





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