「アシュが悪い。ヒラヒラとあっちこっち動き回って見失いそうになるから、こうして捕まえておかなければいけないんだ。」
「もう、そんなに離れないから大丈夫よ。」
「いや、駄目だ。」


何が何でも離してくれなさそうなアイオロスの態度に、アシュは困惑した顔をして彼を見上げた。
そんな顔をされては、何だか悪い事をしているような気分になってくる。
アイオロスは思わず繋いだ手を緩めたが、直ぐに思い直し、キュッと力を籠めてアシュの小さな手を自分の大きな手で包み込んだ。


「アシュは、俺と手を繋ぐのが嫌なのかな?」
「あの、えっと……。別に嫌とかではなくて、恥ずかしいから……。」
「だったら、そのうち慣れるさ。」


屈託のない、アイオロスのにこやかな笑顔。
時に太陽の輝きにも形容される彼の笑顔は、目眩を感じさせる程に眩しい。
アシュは繋いだ右手が徐々に熱を帯びて熱くなってくるのを感じながら、眩しさから目を逸らすように、もう一度、俯いた。


正直、今日のアイオロスはアシュが直視出来ないくらいに素敵だった。
白いシャツにシンプルな黒のザックリとしたセーター。
それに、ワンウォッシュの濃いインディゴ色した細身のジーンズ。
極々ありふれた飾り気も何もない服装なのに、それが人々の目を惹く程に格好良いのは、やはりそれを着ている本人の魅力だろう。


街を行き交う全ての女性達の羨望の眼差しが、颯爽と歩くアイオロスに注がれている事を、アシュは良く分かっていた。
そして、彼の隣を歩く自分に、妬みの籠もった視線が向けられている事も。
そんな中で、堂々とアイオロスと並んで歩ける程の自信は、彼女にはなかった。


勿論、アシュにとってアイオロスと手を繋いで歩く事は、卒倒しそうなくらいに嬉しい。
ずっとずっと好きで想い続けてきた人だ。
幸せで胸がいっぱいで、張り裂けそうなくらいドキドキと強く高鳴っている。
それでも、アイオロスは黄金聖闘士で、教皇補佐で、聖域の英雄で。
輝かんばかりの地位を持つ彼には、自分よりももっと相応しい相手が隣を歩くべきだと思えてならなかった。


「でも、ロスにぃ。私はロスにぃと手を繋いで歩くには、あまりにも見劣りするから……。」
「アシュ……。」


全く、彼女のこの自分を卑下する癖は、何をどう言っても治らないのだろうか?
俯いてしまったアシュの頭のてっぺんを見下ろしながら、アイオロスは気付かれぬ程度に軽い溜息を吐く。


アシュは美人だ。
その姿形の美しさは、多分、聖域に勤める女官達の中でも上位に入るだろう。
現に彼女に憧れたり、興味を持って見つめている男共は多い。
ただ今まではシュラの鉄壁のガードで守られていたため、彼女がそれに気付く事はあまりなかったのだろうが、それにしても自覚がなさ過ぎるというのも問題だ。


「あそこへ行こうか、アシュ?」
「……公園?」


兎に角、この人目の多い通りを歩いていては、いつまでもアシュがこの『手を繋ぐ』という状況には慣れてくれないだろう。
そう判断したアイオロスは、路地の向こう側に垣間見えていた公園を指差す。
そして、アシュが返事をする前に、彼女の手を握り直すと、グイッと強く引き、その公園に向けて歩き出した。



→第8話へ続く


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