もう限界だった。
これまで抑えに抑え続けてきた自制心。
だが、もうこれ以上は抑え切れないところまで来ていた。


目の前の彼女は、五年間も想い続けてきた大切な人だ。
愛しくて愛しくて、愛し過ぎて、何度も夢の中で愛を囁き、彼女を強く抱き締めた。
その彼女を、突然、ひょっこりと戻って来た兄に、奪われたくはない。
いや、兄だからこそ、奪われたくはなかったし、絶対に渡したくはないと、アイオリアは思った。


「……アシュリル。」


手を伸ばし、アシュリルの華奢な肩に触れる。
触れた刹那、彼女の身体がビクリと震えた事を手の平に感じ取り、連動して震えるアイオリの心。
見開かれた漆黒の瞳、その黒い色さえも燃え尽くす赤に染められた、今この時。
アイオリアの中の迷いは、全て吹き飛んでいた。


「アシュリル、俺は決めた。」
「アイオリア、様?」
「俺は君の事が好きだ。ずっと、ずっとずっと前から、出逢った時からアシュリルが好きだった。」


真剣な眼差し、朱に染まるグリーンアイズ。
真っ直ぐな瞳を向けられて、心臓の鼓動が止まった気がした。
ずっと想い続けてきた人からの、突然の告白。
アシュリルは言葉もなく、アイオリアの瞳を見つめ返す。


だが、何故かアイオリアの表情は険しかった。
まるで、これから戦地へと赴くのかと思えるような、それは苦渋の決断を迫られた人の顔だ。
何故、このような時に、そんな厳しい表情をするの?
嬉しさで胸が高鳴る反面、アシュリルは同時に戸惑いをも感じていた。


「あ、あの、アイオリア様……。私も――。」
「いや、良い。言わなくて良い。」
「……え?」


私もずっと貴方が好きだった。
そう告げようとしたアシュリルの言葉が、断固としたアイオリアの声によって妨げられる。
もしや自分の想いなど、アイオリアには簡単に見抜かれていたのだろうか?
そうと知らず、アイオリアの態度に一喜一憂していた自分は、彼の目にはさぞかし滑稽に映っただろうと、アシュリルの頬が赤く染まる。
だが、その事を気付かせない程、真っ赤に染め替えてくれる夕陽に、彼女は感謝した。


「分かっている。アシュリルは兄さん――、アイオロス兄さんの事が好きなのだろう? 俺の事など、眼中にもないのだろう?」
「っ?!」


違う。
見抜かれてなどいなかった、伝わってなどいなかった。
それどころか、彼は大きな勘違いをしていた。
その瞬間、赤く染まっていたアシュリルの顔は一転、蒼白に変わっていた。





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