喜びと嬉しさで舞い上がっていたアシュリルの世界が、一瞬にして真っ暗な暗闇に変わる。
ずっとずっと好きだった彼が、自分の事を好いてくれている。
だが、彼は私の想いには気付きもせずに、あろう事か、別の人を好きだなどと思い込んでしまっている。
しかも、頑固な性格の彼だ。
それを正したところで、素直に受け止めてくれるだろうとは思えない。


それでも……。
それでも、アシュリルは自分の本当の気持ちを伝えるために、言葉を紡ぐしかなかった。
真剣な言葉で、強く強く彼に訴え掛ければ、その心を開いてくれるかもしれない。
アイオリアと同じだけ恋愛に不器用なアシュリルには、誤解を解く方法は他に見つけられなかった。


「違いますっ! アイオリア様、それは誤解です! 私が好きなのはアイオロス様じゃありません!」
「良いんだ、アシュリル。君は優しい女性だから、俺を傷付けまいとそう言ってくれるのだろう。だが、もう良いんだ。」
「違う、違います! 本当なんです!」 


恋愛に奥手なあまり、アシュリルは分かっていなかった。
誤解を解こうとすればする程、躍起になって正そうとすればする程、アイオリアはそれが『真実』なのだと確信してしまうという事を。
あまりに無器用過ぎる二人は、互いの距離を埋める術(スベ)を、まるで持っていなかった。


「そんなに必死にならなくても良い、アシュリル。俺は分かってるから……。だが、諦め切れないんだ。ずっと想い続けてきたアシュリルを、他の誰かに奪われるなんて、例え、それが兄さんだろうと君を渡したくはない。だから、決めた。それが君を傷付ける事になろうとも……。」


痛々しいまでに揺れるアイオリアの瞳。
一体、何を考えているのだろう?
一体、何をしようとしているのだろう?
まるで読み取れなかったが、ただそれが自分にとっても、彼にとっても、幸せな結末には結び付かない事を、アシュリルは悟っていた。
それだけ、アイオリアの瞳は苦しげに揺れていたのだから。


「誤解です、誤解なんです……。私が好きなのは、アイオリア様なの……。」
「もう良い。それ以上は言うな。」
「でも、アイオリア様は信じてはくれないのでしょう? 私の気――、んっ?!」


涙を浮かべ俯いたアシュリルが、無意識にアイオリアの腕をギュッと掴む。
刹那、弾けたようにアイオリアが彼女の華奢な身体を自分の方へと引き寄せた。
そして、腕の中に閉じ込めるのと、細い顎を持ち上げたのが、ほぼ同時。
アシュリルが抵抗する間もなく、アイオリアは強引な口付けによって彼女の言葉を奪っていた。





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