「――アシュリル、か?」


小さく響いた扉の音と、次いで自分の名前を呼ぶ声。
この声は、どんな時でも間違いなく聞き分けられる。
大好きな、彼の声。


「……アイオリア様。いらしたのですね。」
「どうしたんだ、アシュリル? こんな時間に。」


振り返ったアシュリルの視界には、アイオリアの姿があった。
誰よりも逞しく雄々しい姿で立つ彼の金茶の髪が、燃え立つ夕陽に染められて、濃い赤に色付いている。
それは、アイオリアの内に潜む情熱的な力を思わせ、アシュリルの心はドキリと高鳴った。


「それを届けに来たんです。アイオリア様のでしょう?」
「……ん?」


慌ててテーブルのところへと駆け戻ると、アシュリルは置いてあったバングルを指差した。
そのバングルもまた、夕陽の強い光に当てられ、不思議な輝きを見せている。


「誰もいないのだと思って、置手紙と一緒においていこうと思ったんです。」
「そこに俺が現れた、という訳か。」


アイオリアは手紙を手に取り、サッと目を通した。
アシュリルらしい気遣いが随所に現れている内容、そして、走り書きとはいえ丁寧で読み易い字が並んでいる。
タイミングが良かった。
きっと後から、この手紙とバングルを見つけていたら、アシュリルに会えなかった事を残念に思うに違いないのだ。


アイオリアは手紙をテーブルに戻すと、バングルを摘んで左腕にはめた。
バングルはアイオリアの手首に戻る事で、更に輝きを増したように見えた。


「ありがとう、助かった。何処でなくしてしまったのかと思っていたところだ。」
「そうですか、良かった。」


何処かホッとした様子を滲ませて、微笑んだアシュリルがアイオリアを見上げる。
途端にアイオリアの胸が高鳴り、それまでのナチュラルな笑顔が、ぎこちないものへと変わった。
夕陽に染まるこの世界で、アシュリルのこの魅惑的な微笑は心臓に悪過ぎる。
自分の意思を無視して早鐘を打つ胸、彼女を抱き締めたいと勝手に伸びる腕。
今、この部屋の中、愛して止まないアシュリルと二人きり。
この状況下で、理性をかなぐり捨てたくなる衝動を堪えるのは至難の業だ。


大人になり、元から持つ艶やかさに磨きの掛かったアシュリルは、本当に綺麗だった。
その上、キラキラと輝く瞳の曇りなさ、大人しくて、しとやかで、上品で。
見た目の妖艶さと、性格の純粋さのギャップが、また男心を大いに擽る。
ただでさえ免疫の少ないアイオリア。
更には他の恋を経験していない、ずっとアシュリルを一筋に思い続けている。
そんな彼にとって、今、この時のアシュリルの姿は、『誘惑』以外の何物でもなかった。







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