「アイオリア様は、調べものでもされていたのですか?」


不意に話題が変わる。
ぼんやりとアシュリルの夕陽に染まる白い肌を眺めていたアイオリアは、ハッとして目を見開いた。
すると、アシュリルはアイオリアの後方を指差していた。
先程、彼が現れた時、そこから出て来たのがチラッと見えていたのだ。


それは他のドアとは明らかに違う、小さなドアだった。
リビングの壁の一部に備え付けられたそのドアは、アイオリアの身長よりも低く、横幅もかなり狭い。
一見、収納部屋か納戸へでも続いているのかと思わせるドアだが、それが何であるのか、アシュリルは知っていた。


各宮に備え付けられているライブラリ。
これまでの長い年月、その宮を守護してきた黄金聖闘士である宮主達の事が記載された歴史、そして、彼等自身が記した記録などが収められている書庫だ。


勿論、それは磨羯宮にもあるため、アシュリルはその存在を知っていたが、入った事は一度たりとてなかった。
そこは、その宮の重要な情報を収めた場所ゆえ、宮主の許可なくしては、例え女神だろうと教皇だろうと立ち入る事が許されない。
その書庫へと続くドアから出て来たのだ、アイオリアは何か調べものをしてたのだろうと、アシュリルが思ったのも無理はない。


「あ、いや……。違うんだ、調べものをしていた訳じゃない。」


だが、アイオリアは直ぐにそれを否定した。
しかし、調べものではないとしたら、何故、書庫にいたのだろう?
疑問符を浮かべ、見上げてくるアシュリルの可愛らしい仕草に、更に心臓の鼓動が早くなる。


アイオリアはグッと息を呑んだ。
そして、僅かな逡巡。
どうするべきかと迷った末、結局、彼女と少しでも長い時を過ごしたいと思う気持ちが勝り、アイオリアは書庫へと続くドアに近付き、ドアノブに手を掛けた。


「アシュリル、少し時間は取れるか?」
「えぇ。少しなら大丈夫ですが……。」


アイオリアの行動の意図が掴めず、より深く首を傾げるアシュリル。
だが、言葉もなく自分を見つめるアイオリアの視線は強くて、アシュリルの胸の鼓動もまた、彼と同じだけ早くなる。


「アシュリル、こっちへ。」
「え? でも、ココは……。」


そう言って、アイオリアは書庫へのドアを開け、その内側へと彼女を促した。
そこは宮主以外に入ってはいけない場所、それくらいはアシュリルも心得ている。
幾らアイオリア本人が承諾しようと、やはり足を踏み入れる事には躊躇するし、戸惑いは隠せない。


「良いんだ、気にするな。別に書庫へ入る訳ではないからな。」
「??」


アイオリアに説き伏せられ、アシュリルは恐る恐る内側へと進んだ。
そこは、ドアの大きさと同じく横幅が狭く、天井の低い階段になっていた。
人が一人、やっと通れる程度の広さしかない。
前を進んでいくアイオリアの背を見上げながら、アシュリルは階段を上った。
一段、上る毎に、胸の動悸が早くなるのが、自分でも分かる。


階段を上り終えると、その先は、同じ狭さの短い廊下に繋がっていた。
二・三歩進めば、左側の壁に、狭い廊下には似つかわしくない立派で豪華な扉が現れる。
それは間違いなく、この獅子宮のライブラリの入口だと、一目で分かる。
そして、その隣にもう一つ、極普通の小さなドアがあった。


これは何処へ続くドアなのだろう?
そう思ったアシュリルだったが、アイオリアは、そのどちらのドアにも見向きもせずに更に先へと歩を進めた。
黙々と廊下の突き当りまで歩いていくアイオリアの背中を追って、アシュリルも軽やかな早足で、その後を追い駆けた。



→第7話へ続く


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