会話が途切れ、全員の視線が集まる中、アシュリルは開けた瓶の口へと鼻を近付けた。
フワリと甘い香りが漂い、その柔らかでいてこっくりと深い香りに、彼女は嬉しそうに微笑む。
一緒に持ってきた小さなグラスに、その綺麗な色をした液体を注ぐと、アシュリルは真っ先にアイオリアへと差し出した。


「私が作った林檎酒なんです。良かったら是非、味見して欲しいのですが。」
「俺で……、良いのか?」
「だって、アイオリア様、林檎がお好きでしょう?」


そうと知っていたから、林檎酒を作ろうと思ったのだ。
アイオリアの一番好きな果物が林檎だと、彼の従者から教えて貰った時に、林檎を使ったジャムパンやアップルパイなども作って彼に食べて貰った事があるが、その時に、同時に思い付いて浸けたのが、この林檎酒。
今から一年前、聖戦が始まる前の事だ。


目の前で、その小さなグラスを傾けたアイオリア。
ゴクゴクと隆起する喉元を見ながら、アシュリルの胸は高鳴る。
彼の事を想い、彼のためだけに作った林檎酒。
美味しいと一言、言って貰えたならば、それだけで幸せだと思った。


「どうですか?」
「うん、美味い。最高だ。」


その言葉に、アシュリルの頬がパッと染まり、小さな顔には眩い笑顔が浮んだ。
そんな彼女を見たアイオリアの頬も、連鎖反応の如く赤く染まり、彼は慌ててグラスをアシュリルへと突き出した。
ぶっきらぼうにも見えるその仕草に、だが、アシュリルは嬉しそうにグラスを受け取り、もう一杯、林檎酒を注いで、アイオリアに差し出す。
それと同時に、その様子を見ていたアイオロスが、酔っ払い独特の物欲しそうな声を上げた。


「良いなぁ。俺にも一杯、貰えないかな?」
「あ、勿論。今、注ぎますね。」


まだ、完全にアイオリアへグラスを渡し終えてなかったところへのアイオロスの催促。
そして、グラスの小ささもあり、また、受け取るアイオリアと差し出すアシュリルの視線の両方が、アイオロスへと向いてしまった事。
そのせいで、グラスを受け取ろうと伸ばしていたアイオリアの手が、グラスではなく、それを持っていたアシュリルの手を握り締めてしまった。


「っ?!」
「うわっ!」
「やだ! ご、ごめんなさい、アイオリア様っ!」


手と手が触れた瞬間、二人同時に手を離し、グラスはアイオリアの足の上に落ちて服を濡らしていた。
そして、慌てたアシュリルが焦って身を乗り出すと、今度はその肘がテーブル上のワインの瓶に当たり、大きな音を立てて倒れ落ちる。
それによって、アイオロスとシュラの上にドボドボと流れ落ちる真っ赤な液体。


「うわぁっ!」
「おわっ!」
「や、やだっ! どうしよう! ご、ごめんなさいっ!」


アシュリルは急いで零れたワインを拭き取ろうとしたが、既に二人の服には大きな染みが出来てしまっている。
シュラとアイオロスはお互いの顔を見やり、アイオリアは自分も酒に濡れたまま、呆然とアシュリルと他の二人を眺めていた。


「あの……。三人共、シャワー浴びてきて下さい。お二人には、兄さんの服をお貸ししますから。」


そう言ったアシュリルの声に、ハッと我に返る三人。
戸惑う三人を浴室に押し込め、アシュリルは自分のやらかした失態に大きな溜息を吐いた後。
酒に濡れた三人の服を洗濯機に放り込んでから、汚れたテーブルと部屋を綺麗に片付け始めた。





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