食後、シュラに引き止められたアイオロスとアイオリアは、リビングで勧められるがままに酒を酌み交わしていた。
アシュリルは一人、キッチンで夕食の後片付けをしている。
そうしている間も、彼女の気持ちはアイオリアへと向かっていた。
黄金聖闘士達が復活した日に、アシュリルはアイオリアへの愛を確信した。
それでもなお、気持ちを押し殺し、想いを伝えようとはしなかった。
聖闘士であるアイオリアは、再び戦いが始まれば、また命を失うかもしれない。
もう二度と、あの時と同じ苦しみを味わいたくはなかった。
アシュリルは怖かったのだ。
アイオリアに好きだと告げて、想いが叶ったとしても、その後に再び彼を失う日が来るのだと思うと、とても堪えられなかった。
だからこそ、皆が復活したあの日、あの時、自分を見つめるアイオリアから思わず目を逸らしてしまったのだ。
それがアイオリアに誤解を与えていたとも気付かずに。
それでも、こうして平和な日々を過ごし、以前と変わらぬアイオリアの姿を見ていると、彼を愛しく想う気持ちが募ってくる。
平和な今だからこそ、少しでも彼の傍にいたいと心は願い、目は自然とその姿を追った。
失う事への恐怖と、日増しに募る深い想い。
心の中で葛藤し続ける二つの気持ち。
失う怖さを知っているが故に、アシュリルは愛する事に臆病になっていた。
「はははっ! それは凄いじゃないか!」
「そうか? だが、もっと凄いのもあるぞ。」
後片付けを終えたアシュリルが、大きな瓶を抱えてリビングへと戻ると、そこではほろ酔い加減の三人が楽しそうに談笑していた。
過去のわだかまりなど、これっぽっちも感じさせない様子で、仲良く酒を酌み交わすアイオロス、アイオリア、シュラの三人。
立ち止まったアシュリルは、思わず目を細めて三人の姿を眺めやる。
楽しそうな三人の姿が、恋の病に締め付けられていた彼女の胸の痛みを和らげていた。
「どうした、アシュリル? そんなところに突っ立って。」
「え? あの……。あまりに楽しそうなので、仲間に入って良いものか躊躇ってました。」
「遠慮はいらないよ。さぁ、こっちへ。」
アイオロスに手招きされて、アシュリルは笑顔を浮かべて三人の傍へと駆け寄った。
手に抱えていた大きな瓶を置くと、テーブルがゴトリと大きな音を立てる。
「ん? それを出すのか、アシュリル?」
「ええ。もう良い頃だと思うの。」
シュラの問いに答えながら、嬉しそうに瓶の蓋を開けるアシュリル。
皆の目が、その瓶とアシュリルへと集まる。
華奢な彼女の上半身と同じくらいある大きな瓶の中では、淡い琥珀色した液体がユラユラと揺れていた。
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