たった一つの変わった事。
心に掛かって気になる事。
それは、アイオロスの存在だった。


以前のシュラ・アシュリル・アイオリアの三人の関係の中に、当たり前のように、すんなりと入り込んできたアイオロス。
ただそれだけなら良い。
それだけなら兄という人が、その場に一人増えただけの事、何も問題はない。


だが、それだけでは済まなかったのだ。
シュラもアシュリルも感じていないようではあるが、アイオリアだけはハッキリと以前の関係が崩れてしまった事を感じ取っていた。
否、感じ取るというよりは、思い込んでしまったというべきだろう。


アイオロスが現れると、いつもアシュリルは嬉しそうに瞳を輝かせる。
他の誰が来た時よりも、それは顕著に現れているようにアイオリアには見えていた。
兄と楽しそうに接し、会話を弾ませるアシュリルは、僅かながらに頬を染め、それはまるで恋をする少女のようだ。


そして、アイオリアは自分の中で勝手に結論を出してしまった。
アシュリルは兄・アイオロスに想いを寄せている、と。
確かにそうであると確認もせずに、決め付けてしまったのだ。
直接、彼女自身に尋ねる勇気がないばかりに。


一度、結論付けてしまうと、なかなか意見を変えない頑固さがアイオリアにはある。
そう思い込んでしまった彼の目には、今は何が映っても、アシュリルのどんな姿であっても、その思い込みの裏付けにしかならなかった。
今も自分の目の前で、アレコレと兄を気遣うアシュリル。
見ているだけで胸が締め付けられる。
その苦しさに耐えられず、気付かれぬように、アイオリアはそっと視線を外した。


勿論、アシュリルに、そんな気は少しもない。
彼女にとってアイオロスは、自分の大切な兄と、愛して止まない人が尊敬している偉大な人物であり、彼女自身も畏敬の念を籠めて見つめる人だった。
次期教皇として期待されている聖域の英雄。
愛しい彼の実の兄であり、彼を黄金聖闘士一とまで言われる素晴らしい闘士にまで育て上げた優れた指導者。


そんなアイオロスを見つめるアシュリルの瞳にあるのは、聖域に住む他の人たちと変わりないものだけだ。
そう、強い憧れと尊敬の気持ち。
つまり、アシュリルにとってアイオロスは、恋愛の対象に成り得るような存在ではないのだ。
彼女は聖域の最重要人物であるアイオロスを、失礼のないように精一杯、おもてなししていただけ。
そんなアシュリルの憧れの視線や、甲斐甲斐しいもてなしの行動の全てが、アイオリアの目には恋する女性の姿として捉えられてしまったのである。


そのアイオリアの強い思い込みが、痛々しいまでの悲劇を呼んだ。
ずれ始めた歯車が、音を立てて軋み出す。
相手を想う気持ちが強まれば強まる程、二人のすれ違いは大きくなるばかり。
互いが互いを想い合いながら、それに気付かない。
胸の奥に燃え盛る気持ちを、言葉にして伝えられないもどかしさ。
そんな二人の向かう先は、ただ闇でしかなかった。





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