部屋の中へと入っていったアシュリルは、いつもと同じくテーブルの上にバスケットを置くと、ポケットから四つ折のメモを取り出し、その上に乗せた。
ただパンを置いていくだけでは失礼になる。
そして、それだけでは何だか寂しいとの思いから、こうしてアイオリアがいない日は、用意していたメモを残すようにしていた。


『今日のパンは、ベーコンとチーズを入れてみました。少し胡椒が効いてます。お口に合えば良いのですが。』


文面は、いつもこの程度の短さ。
本当は、伝えたい事・書きたい事がいっぱいあるのだが、あえて必要以上の事は書かない。
それは、アイオリアに面倒だと思われたくない気持ちと、もう一つ。
伝えたい事は直接、会えた時に取って置きたいとの気持ちからだった。
元々、言葉数の多くない自分、少しでも沢山の話を彼とするためには、話題はいっぱいあった方が良い。
アイオリアとの楽しい会話の時間を、ちょっとでも引き伸ばしたい。
それは恋する少女らしい、ささやかな願い。


アシュリルは同じテーブルの上に乗っていた、空のバスケットを持ち上げた。
それは二日前にパンを持ってきた時の物。
中を覗くと、空っぽのバスケットの底に、小さなメモだけが入っていた。
アシュリルは微かな微笑を浮かべ、そのメモを開く。


『今回のパンも凄く美味かった。ありがとう、アシュリル。』


それは決して綺麗とは言い難いが、力強く若さに溢れたアイオリアの文字。
こうして、たった一言でもお礼の言葉を残してくれる事が嬉しくて。
アシュリルは今まで貰った、このメモを全て、箱に入れて大切に自分の部屋で保管していた。


「――アシュリル?」


突然、背後から響いた声にハッとして、アシュリルはメモの文面に緩んでいた表情を引き締めた。
この声は、絶対に聞き間違える事のないアイオリアの声。
いないと思っていたアイオリアがそこにいて、酷く驚くと同時に、抑え切れない嬉しさがジワリと心の中いっぱいに広がっていく。


「来ていたのか?」
「あ、あのっ……。は、はい……。」


振り返ったアシュリルの目に映ったのは、ハーフパンツ一枚だけのアイオリアの姿。
シャワーでも浴びていたのだろうか、首から提げたタオルで金茶の癖毛をガシガシと拭きながら近付いて来る。
まだ少年とはいえ、厳しい訓練により発達した逞しい筋肉と、がっしりとした体躯。
それを、午前の眩しい光の中に堂々と晒しているアイオリア。
見た目は大人っぽいアシュリルだが、中身は年相応、いや、それ以上に初心で純情かもしれない。
そんな彼女にしてみれば、アイオリアのこの姿は少し刺激が強かったのだろう。
真っ赤に顔を染め、目の前のアイオリアを直視出来ずに、視線を彷徨わせている。





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