流石に、鈍いと言われるアイオリアも、そんな彼女の様子に、直ぐに気付いた。
慌てて手に持っていたTシャツを頭から被り、露出を少なくしたのだが、辺りに漂う気まずい雰囲気は中々薄れはしない。
こういう時、デスマスク辺りならば上手く対処も出来るのだろうが、不器用な自分には掛ける言葉も思い浮かばず、ただただ濡れた髪を掻き毟るのが精一杯だった。


「す、すまん……。」
「い、いえ、あの……。突然、お邪魔した私が悪いのですから、アイオリア様は気になさらないで下さい。」
「いや、アシュリルが悪い事など、何もないぞ!」


思わずムキになって強い言葉が出てしまった。
ハッとして口を押さえるが、もう遅い。
吃驚した顔をして、アシュリルが自分を見上げている。
強い口調に驚かせてしまっただろうか、怖がらせてしまっただろうか?
そう思い、恐々と彼女の顔を覗き込むアイオリア。
だが、アシュリルの魅惑的な切れ長の目は楽しげに細められ、その小さな唇は柔らかな弧を描いている。
そして、次の瞬間には、クスクスクスと楽しげな笑い声が響いてきた。


「アイオリア様、今日はお休みだったのですか?」
「あ、あぁ。休みで身体が鈍りそうだったから、少しトレーニングをしてきたんだ。」


それで汗を掻いたので、シャワーを浴びていたところに、アシュリルが尋ねて来たと言う訳だ。
浴室から出てくるのが、もう少し遅かったら、彼女とは入れ違いになっていたかもしれない。
そう思うと、タイミング良く出て来れた偶然を神に感謝したい気持ちにもなった。


「お休みなのにトレーニングをされていたの? 熱心なんですね、アイオリア様。」
「そうか? 別に俺ばかりではないだろう。アシュリルの兄さん、シュラだって、相当なトレーニング好きじゃないのか?」
「……確かに、そうですね。」


休日といえど、放っておけばいつまでも筋力トレーニングやら走り込みやらを続けて、サッパリ休もうとしない兄の姿を思い浮かべ、アシュリルはまたクスクスと笑う。
見下ろす彼女の、そんな笑顔が眩しく、今度はアイオリアが視線を彷徨わせる番だった。
どうにも、真っ直ぐに彼女を見つめていられない。
下手に見つめていると、その魅惑的な瞳の力で心を吸い取られてしまいそうな、そんな気さえしてくる。


「アイオリア様?」
「ん? な、何だ?」
「珍しいですね、アイオリア様がアクセサリーなんて。」


やり場のなくなった手で無意識に、また髪の毛を掻き毟っていたアイオリア。
その腕を見上げ、アシュリルは指を差している、とても不思議そうな顔をして。





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