次いで、リビングの中からゆっくりと近付いてきたのは、こちらは磨羯宮ではお馴染みの人物。
しょっちゅう、ココへ油を売りに来ては邪魔者扱いされているシュラの悪友の一人、デスマスク。
余裕たっぷりの様子で、口元には彼独特のニヤリとした笑みが浮んでいる。
そのデスマスクも、アイオリアの事は軽くスルーし、ドアノブに手を掛けたままでいる彼女――、アシュリルと呼ばれていたが、その彼女へと真っ直ぐに歩み寄っていく。


「悪ぃな、ミロ。そりゃダメだ。明日のアシュリルの予定なら、俺と巨蟹宮で過ごすって決まってンだよ。」
「いつ決まったんだよ、そんな予定?! アシュリルの意見も聞かないで、勝手に決めるな、この蟹頭!」
「あ?! ンだと、この尻尾蠍が!」


唖然とするアイオリアの目の前、彼女を挟んで揉め出す二人。
非常に下らない言い合いを続ける黄金聖闘士二人を、何が何やら分からない状態で見ているしかないアイオリア。
だが、大きな身体の二人に挟まれ、その整った顔に苦い笑みを浮かべて肩を竦めている彼女に気付いて、アイオリアは慌てて二人の間へと割って入った。


「デスマスク! お前まで、こんなトコロで何をしている?!」
「あ? 幾ら脳筋のオマエでも、見りゃ分かンだろ。頼むから邪魔すンなよ。」
「邪魔する気なら、アイオリアといえど容赦しない。黙って引っ込んでてくれ。」
「……意味が分からん。」


クルリと二人同時に振り返って、鋭い瞳で睨んでくるデスマスクと、唇を尖らせながら指を突き立てるミロ。
凄みを効かせてアイオリアを脅すと、再び背を向けて少女を囲んで逃さないようにしている。
普通の少女であれば、こんな異様に大きい男二人に詰め寄られれば、怯えてもおかしくない。
だが、この緊迫した状況下で、彼女は浮かべていた苦笑いを引っ込め、大輪の百合の花を思わせる艶やかな笑顔を二人に向けた。


「ごめんなさい、ミロ様、デスマスク様。明日は兄さんと先約があるんです。また別の機会に誘って下さいね。」
「えー。別に兄貴となら、いつだって出掛けられるじゃん。そっちを断れば良いのに……。」
「やめろ、ミロ。男は退き際が大事なンだよ。あまりしつこいとアシュリルに嫌われるぞ。まぁ、その方が俺にとっちゃ好都合だがな。」
「う……。」


慣れた様子で二人を突き放す少女、とても一朝一夕のあしらい方ではない。
こういう場面には慣れっこなのだろうか?
黙って成り行きを見守っているしか出来なかったアイオリアが、少女の手腕に感心していたその時。
背後から現れた人物によって、ミロとデスマスクによる不毛なだけの会話が打ち切られた。


「アシュリルの言う通り、明日の予定は売約済みだ。今日は諦めて、とっとと自宮に戻れ。」


キッチンの方から出てきたのは、この宮の主であるシュラ。
黒いエプロンで濡れた手を拭いつつ、険しい眼差しで二人を睨み付けながら近付いてくる。





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