背後に感じる彼女の気配と、耳に響く軽やかな足音。
無作法な自分がドスドスと響かせる騒音とは違う、彼女にかかれば足音さえも上品で、それが返ってアイオリアの気を引いた。
意識しないようにと思っても、勝手に後方へと気が飛んでしまう。


彼女は一体、何者なのだろうか?
シュラが新しく雇った女官か、それとも従者か……。


しかし、このような可憐な少女を、あの男が従者として雇うとは考え難い。
シュラという男は堅実だ。
従者を雇うなら、まず実用的な面を一番に考慮するだろう。
例え、この少女がどんなに優秀であろうとも、シュラが雇うタイプではない。
彼なら確実に男性を選ぶ、無茶な要望にも堪えられるような。
そう、シュラならば元聖闘士候補生など、実力があり、信頼出来る男を選ぶだろう。


リビングまでの至極短い廊下を歩きながら、アイオリアの頭の中ではこれだけの思考が巡っていた。
だが、そんな風に彼女について考え込んでしまっているという事実にすらアイオリアは気付いていない。
そうしてしまう程に、彼女に惹かれてしまったという事にも。


「さあ、どうぞ。アイオリア様。」


リビングの入口が近付くと、後ろから歩いていた彼女が前へ進み出て、アイオリアのためにすかさずドアを開けた。
耳の中でこだまするのは、アルトの落ち着いた声。
少女の割には低めの声なのに、良く透り、耳に心地良い。
ドアの向こう側で待つ人物の事など忘れ、すっかりその声に魅了されて彼女の方へと視線を送ったアイオリア。
だがしかし、次の瞬間、自分の視界を横切って彼女の方へと一直線に飛び出してきた『影』に、ハッと我に返った。


「アシュリル! 明日は俺と一緒に市街へ行かないか? 面白そうな映画が上映中なんだ。」
「ミロ?! お前、何故、ココに?!」


自分と少女の間に入り込み、華奢な彼女の姿をすっぽりと隠してしまったのは、良く見慣れた豪奢でいて暑苦しい癖毛の長い金髪。
幼い頃から友として、いや、友と言うよりは喧嘩仲間として切磋琢磨してきたミロだったが、彼をこの磨羯宮で見掛けるのは珍しい。
それどころか、皆無に等しいだろう。
アイオリアはこの場に居合わせる人物としては相応しくない友の後ろ姿を、ポカンと口を開けて呆然と眺めていた。





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