「えぇー、良いじゃんか。もうちょっとくらいアシュリルとお喋りしてたって。明日のデートは諦めるからさぁ。」
「そんなにケチケチすンなよ。俺とオマエの仲じゃねぇか。なぁ。」
「何が『俺とオマエの仲』だ、気持ち悪い。アシュリルだけが目当てのクセに良く言うものだ。ほら、俺達はもう夕食なんだよ、早く帰れ。それとも、出入り禁止にでもされたいのか?」


『出入り禁止』の一言は、予想以上の威力を持って二人に届いたらしい。
表情に表われるくらいに明らかに二人が怯んだのを、鋭いシュラは勿論、見逃さなかった。
その背を押すようにリビングの外、そして、廊下、更にはプライベートルームの入口まで追い遣ると、手馴れた仕草で扉の外へと弾き出す。
漫画やアニメであれば『ポイポイ』と音が聞こえそうな様子で二人を摘み出すと、ヤレヤレと肩を竦めてシュラが戻って来た。


「すまんな、アイオリア。折角、来てもらったというのに、煩い奴等がいて。」
「いや、別に問題はないが……。」


確かに、ミロとデスマスクという普段はお目に掛かれない組合せには驚いたが、それよりも何よりもアイオリアには気にかかる事があった。
チラリと戻って来たシュラの横へと視線を向ければ、そこには楚々として寄り添う小柄な少女の姿。
シュラはアイオリアの視線に気付くと、苦笑いを浮かべてその少女の頭にポンと手を置いた。


「コイツはアシュリル、俺の妹だ。」
「妹……、だと?」
「あぁ、十日程前から、ココで一緒に暮らしている。」
「挨拶が遅れました、すみません、アイオリア様。アシュリルと申します、はじめまして。」
「あ、あぁ。はじめ、まして……。」


魅惑的な容姿に浮かんだ艶やかな笑み。
ただその笑顔だけで目が離せなくなってしまったアイオリアは、呼吸すら忘れて穴の開く程に#アシュリル#をジッと見つめた。
妖しさを秘めた漆黒の宝玉のような切れ長の瞳、触りたいと思うくらいに豊かで艶々と光を反射する長い黒髪、冷静で落ち着いた雰囲気。
そのどれもがシュラと似通っている一方、低い身長と小さな手足、身体の線の壊れそうな細さ、やわらかな物腰など、シュラとは正反対な部分も多い。


「あまり……、似ていないな。」


総合すると、似ていると言うよりも、似ていないと言った方が当たっている。
アイオリアはそれを心の中で思っていたつもりであったが、無意識のうちに言葉にして呟いていたのだろう。
そのボソッとした呟きを耳にしたシュラが、より一層、苦い笑みを深めた。


「あながち間違ってはいない。似てると言うより、似てないと言うヤツの方が多いからな。」
「す、すまんっ! 口に出していたつもりはなかったのだが……。」
「気にするな、もう慣れた。」


慌てるアイオリアを手で制し、横のアシュリルに視線を送るシュラ。
身長差のため見下ろすように首を傾けるシュラを、こちらは見上げるように顔を上げて視線を送るアシュリル。
親しみの籠もった二人の仕草は、一見、恋人同士とも見えかねないが、傍で見ていたアイオリアには、ハッキリと二人の信頼の厚さが見て取れていた。
それはやはり恋人同士のものではなく、血の繋がった兄と妹のものだ。





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