――ドンドンドンッ!


親しき仲にも礼儀あり。
各宮のプライベートルームには鍵は掛けられていないのだが、勝手に入ってしまうのは申し訳ない。
生真面目なアイオリアは、扉の前でシュラが現れるのをジッと待つ。


トットットッ……。


程なくして、扉の向こう側から軽い足音が聞こえてきた。
次いで、軽い足音とは正反対に、ギイィィッと重々しい音を立てて、年期の入った古めかしい扉が開かれる。
ゆっくりと開いた扉の隙間から、だが、予想に反してシュラとは別人が顔を出した事で、楽しそうな笑みを浮かべていたアイオリアは一瞬の内に固まっていた。


「はい、どちら様でしょうか?」
「っ?!」


扉の隙間から顔を覗かせたのは、見た事もない少女。
しかも、だ。
アイオリアが一瞬で目を奪われ、放心してしまうだけの魅力を持った美しい少女だった。


「あ、あのぉ……?」
「っ?! あ、あぁ、す、すまない! 俺はアイオリア。シュラに呼ばれて来たのだが……。」
「貴方がアイオリア様ですね。お待ちしておりました。どうぞ、お入り下さい。」


扉を大きく開くと同時に、スッと身を引く少女。
真新しい真っ白な女官服のスカートが、フワリと揺れて翻る。
その優雅でスマートな物腰に、またしてもアイオリアの目は奪われていた。


「アイオリア様? どうかされました?」
「あ、い、いやっ! 何でもない!」


扉の前で固まったまま動かないアイオリアを見上げ、小さく首を傾げる少女。
黒い宝玉のような瞳が、入口の薄暗さの中でもキラキラと輝き、どことなく潤んで見えるせいか、仄かに残っている幼さの中にも妙な色っぽさも感じる。
その視線を受けて、慌てて部屋の中へと入ったアイオリアは、彼女に気を取られて注意力が落ちていたのだろう。
入口の段差に足が縺れ、僅かにバランスを崩した。


「おっと!」
「あ、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫だ! す、すまん!」


戸惑いに慌てふためくアイオリアとは対照的に、そんな彼を見てクスリと笑う少女は、とても落ち着いた雰囲気を纏い、無駄のない受け答えと柔らかな物腰、客人に対する気遣い。
純粋なアイオリアの心を鷲掴みするだけの十分過ぎる魅力が、目の前の彼女にはあって。
アイオリアは転びそうになった恥ずかしさと、それとはまた別の感情から自分の頬が赤く染まっている事にも気付かず、「どうも。」と小さく会釈すると、ぎこちない足取りでシュラの待つリビングへと向かった。





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