――カラン……。


グラスの中で氷が揺れる音。
続いて、ドンッと強めにグラスがテーブルに乗せられる音。
驚いて横を見る。
と、自分の手の甲で男っぽく口元を拭ったアミリが、空になったグラスに酒を注ごうと、新たな酒瓶に手を伸ばしたところだった。


おいおい。
今日はヤケにハイペース過ぎやしないか?
随分、無茶な飲み方しているが、何かあったのか?


唖然と彼女の横顔を見ていても、表情どころか顔色ひとつ変えずに飲み続けるアミリの様子からは、何があったのかなど読み取れない。
だが、それでも多少は心配になった俺は、ひたすら飲み続ける彼女を、黙って見ていた。


「はぁ……。」


グラスが唇から離れた、ホンの一瞬。
僅かに微かな溜息が、アミリから聞こえた気がした。
いや、気がしたんじゃない。
聞こえたんだ。


ゆっくりとグラスを置いたアミリは、だが、今度は新たな酒には手を伸ばさず、その手を引っ込める。
そして、おもむろに俺の方に顔を向けた。


「アミリ……?」


驚いた。
驚いたあまりに、思わず彼女の名前を優しく呼んでしまった。
まるで、彼女に気がある男達の一人のように。


「……何?」
「何か、あったのか?」
「別に。」
「嘘、吐くなよ。」


嘘だというのは明らか過ぎる事実だった。
何故なら、俺に向けたアミリの黒い筈の瞳が、まるで曇り空のような灰色に変わっていたから。
いや、瞳だけではない。
彼女の全身が、今にも透き通ってしまいそうにグレーにくすんで見えた。





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