「ホラ、起きて。宮の中に帰るわよ。」
「痛っ! 乱暴だぞ、お前!」


空に向けて伸ばしていた俺の手首を引っ掴み、無理矢理に起き上がらせようとグイグイ引っ張るアミリ。
俺さえ宮の中に連れ帰る事が出来れば満足らしく、それによって俺の身体がどうなろうが知ったこっちゃないらしい。


「腕が抜ける!」
「煩いわね、聖闘士のクセに文句言わないの。これくらいでおかしくなる程、ヤワな身体ではないでしょうに。」
「口の悪さも変わらないな。ったく……。」


ずっとずっとこうだった。
俺の傍から離れないクセに、ベッタリしている訳でもない。
程良く俺を突き放し、程良く俺を煽って。
本人が意識してのものかは知らないが、その絶妙な態度は、いつも俺の心を惹き付けて止まず。
見てろよ、このヤロー! と、心に火が灯るのだ。


「なぁ、アミリ。お前、何で俺の傍から離れないんだ?」
「他に行くところがないから。」
「なら、他に行くところが出来たら、俺から離れていくのか?」
「……分かってるクセに。」


俺を立ち上がらせる事に成功したアミリは、そのまま俺の手を離さずに歩き出した。
手首から滑り落ちた彼女の手は、辿り着いた俺の手をギュッと握り締め、まるで自分の体温を俺に伝えようとしているかのようだ。
十年以上も、こうして俺に寄り添ってきたアミリ。
その気持ちは、聞かずとも分かってはいる。
だが、それを言葉にして伝えてくれるのは、夜の親密なひと時に、僅か一言二言だけ。
俺への想いを、その声でその唇から伝えられるのは、混じり合う愛の一番極まったホンの一瞬だけの事。


「お前の想いを、俺は直に聞きたいんだがな……。」
「想い? それなら知っているじゃない。私はカノンに助けられた日から、貴方だけが私の帰り着く『家』なんだって、何度も言ったわよ。」
「俺が聞きたいのは、そういう事じゃない。」


助けた、と言うか、拾ったのだ。
船の事故で海に投げ出されたアミリが、偶然にも、あの海の底の世界に流れ着いて。
同じく偶然にも通り掛った俺が、彼女を拾った。
十年近くも前の事だ。
俺が十八、アミリが十五の時だった。


そして、共に暮らし始めて一年もしない内に、俺達は男女の関係になった。
だが、アミリのこの性格ゆえ、甘ったるい恋人同士のような生活は望めない。
まるで兄妹として暮らしてるような、そんな感覚で過ごした日々。
だが、それでも、傍から見れば不満足のようにみえて、俺自身は至極満足していた。
なぜなら、彼女を愛していたから。
従順に従う女よりもずっと上手く、俺を刺激して焚き付ける、この女を。


「遊びなら構わない、カノンが他の女の人を抱いたって。でも、ちゃんと私を大事にして、私以外の恋人を作らないって約束してくれるなら、ね。」


そんな事を言われたら、浮気する気も失せる。
他の女を抱いたところで、楽しくとも何ともない。
気分が萎える、やる気も起きない。
アミリをベッドに組み伏せて、普段の彼女からは想像出来ないような切ない声で鳴かせた方が、よっぽど刺激があるというものだ。





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