変わらないもの



遠いあの日、俺が探していたのは何だっただろう?


薄青い空にプカプカと浮かぶ雲に向けて伸ばした俺の手は、ただ虚しく空を切った。
寝転んだ草原は秋も深まって、とても暖かとは言えない。
寧ろ冷たい感触が背中から伝わり、あまり良い気持ちはしないのだが、何故か起き上がる気にはならなかった。


欲しい物は沢山あった。
沢山あった筈なのに、今では何一つ思い出せない。
それが何であったのか、何のために欲しかったのか。
その全てが曖昧になって。


再び空に向けて伸ばした手。
大きく広げてみれば、あの雲をすっぽりと手中に掴めるかの如く、俺の目には映るのに。
現実には掴めはしないのだ、何一つ。
それは、あの日の俺が抱いた野望と同じで、届きそうに見えて、絶対に届く事など有り得ないものなのだから。


「カノン、風邪引くわよ? そんなところで寝てたら。」


不意に視界に薄暗い影が掛かり、掴もうと必死になっていた、あの雲が浮かぶ空を遮られた。
その代わり、目をまん丸にして俺を覗き込んでいる見慣れた女の小さな顔が、視線の先に揺れる。
彼女は仰向けに寝そべっていた俺の頭の上に立ちはだかり、上から俺を見下ろしていた。


「アミリ、邪魔だ。どけろ。」
「空なんて、いつでも見れるじゃないの。」
「良いからどけろ。パンツが丸見えだぞ。」
「気にしないわ、カノンなら。」


平然と俺に逆らい、平然と俺を好きだと言ってのけるアミリ。
なのに、俺の前で自分を全く飾らないし、飾ろうともしない。
自然体そのままのアミリ。
コイツだけは、昔から何も変わらない。
不思議な女だ。


長い戦いが終わった後、俺が海界から聖域へと移る時。
俺が行くならば自分も一緒に行くと、アミリは当たり前にココへとついてきた。
十年以上も住み続け、慣れ親しんできた海界に未練はないのかと尋ねれば、アミリはあっけらかんとした顔で言い切ったのだ。


『十年以上も共に暮らしてきたカノンと離れてしまう事に比べたら、未練なんて大したものではないわ。』


女とは思えない程の潔さ。
他の女からすれば、変わったヤツにしか見えないのだろうが、俺はそんなアミリが気に入っていたし、何より一緒にいて居心地が良い。
サッパリとした物言いと性格は、俺の感覚にピッタリと合って好ましかった。





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