「あれ、アイオリア?」
「ん、アリナー? どうした? 今日は仕事じゃなかったのか?」


午後イチで訪れた獅子宮。
いつものように勝手にプライベートルームの中へ入っていくと、そこには居ない筈のアイオリアが、何故かソファーの上で寝そべっていた。


「アイオリアこそ、今日は後輩指南の当番じゃなかったの?」
「それが……。今朝方、いきなり兄さんが現れてな。『リア、悪いが当番の日を代わってくれ。』と言われて、ほぼ無理矢理……。」


溜息の混ざった声で話すアイオリアの表情は、渋いというか、苦いといった感じで。
きっと、明日は私との約束があるから代われないと言い張ったにも係わらず、そんな事はお構いなしに、ほぼ強制的に押し付けられたのだろう。
アイオロスさんは、思い込んだら一直線に我が道を突き進む人だ。
他人の言う事なんて、これっぽっちも聞きはしない。
例え、それが実の弟の言葉であろうと。


「私も同じよ。今朝、急に休みになったの。」
「そうなのか? 失敗したな。朝の内にアリナーも休みだと分かっていれば、今日、出掛けられたのに。」
「でも、まさかアイオリアも休みになってるなんて、全く思わなかったもの。知ってたら、あんなに苦労して時間を潰さなかったわ。」
「俺もだ……。」


私はアイオリアの寝そべっているソファーの空いているスペースに腰掛けると、大きく溜息を吐いた。
背後からは、同じくアイオリアの大きな溜息が聞こえてくる。


「どうする、アリナー? これから。」
「どうしようね。何も思い付かないよ。今からじゃ、アテネ市街まで出て行く時間もないし……。」
「そうだな……。」


溜息の合唱が続き、脱力した空気が部屋に広がる。
二人揃っても上手く時間を潰す方法が浮かばなくて、困惑するばかりだ。
いや、二人揃ったから余計に何も出てこないのかもしれない。
私の予定では、訓練生達に檄を飛ばしながら素敵に汗を流すアイオリアの姿を、じっくり堪能するつもりだったのに。
今日は何もかもが噛み合わなくて、ズレていくばかりだ。


そう思いながらアイオリアの方を振り返ると、彼は眉を八の字形にして困惑したまま、ぼんやりと天井を見つめている。
その表情が何だかとても可愛らしく思えて、私は顔の横の空いた部分に手を付くと、そのまま覆い被さるようにしてアイオリアにキスをした。





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